「米国際開発局(USAID)が大変なことになっているそうですね。番組に出てください」とアベマ・プライムへの出演依頼があった。「えっ」という印象。しかも「USAIDをめぐる情報はフェイクか真実か」という切り口で1時間割くという。

トランプ大統領は、同局の「約97%の職員が解雇となる」と発表し、2月11日までに数千人の職員を無期限休職・解雇した。先立って同局による国際的な支援資金提供が凍結された。数千人が突然失業したのはショックだが、アメリカではもっと懸念されるニュースがある。人々は、不法移民とみなされて移民取締当局に摘発されるのを恐れて生きている。
なぜUSAIDをめぐる情報が、日本で番組が企画されるほど注目されたのか。発端はトランプ氏のSNSだ。
「数十億ドルがUSAIDなどから盗まれ、フェイク・ニュース・メディアに渡っている」
と6日、自分が運営するSNS「Truth Social」に投稿した。さらにフェイク・ニュース・メディアとして、ニューヨーク・タイムズやPoliticoなどを名指し。これを政府効率化部門(DOGE)トップである実業家イーロン・マスク氏が拡散した。
「800万ドルを受け取った左翼の三流紙」呼ばわりされたPoliticoは、「政府から、補助金や助成金などの資金を受けたことは一切ない。(創業以来)18年間で10セント硬貨1枚も」と声明で反論。タイムズは「連邦政府から受け取っているのは購読料だけだ」とXで抵抗した。
SNSでは、「金を受けとったメディアが、選挙を妨害した」「リベラル系メディアが保守系メディア潰しのため金を使った」というでっち上げの情報があっという間に広がった。毎日新聞によると、日本でも「USAIDの悪行が表沙汰になっているのにマスコミは報じない」などの書き込みとともに、資金提供を受けたとする日本の新聞社・テレビ局などのリストがSNS上で出回ったという。
米大統領選挙、直後の兵庫県知事選挙などを経て、偽情報・誤情報が氾濫。同時に日米ではともに主要メディア叩きが強まってきた。「マスゴミ」という言葉に見られるように、主要メディアに対するネガティブな見方は日本の方が勢いを増しているようだ。それが日本人にはほぼ関係がないUSAID批判につながった。
日米主要メディアはUSAIDから金を受け取っていないことを次々に表明。しかし、マスコミへの不信が改善される突破口にはなっていない。
USAIDは、ウクライナやアフリカなど海外への人道支援・開発援助を手掛けてきた。2023年の会計は、400億ドル(約6兆円)(BBCによる)。飢餓、病気、気候変動などと戦う資金を失った人々にとっては、リベラル・保守といったイデオロギーの問題ではない。死活問題だ。(写真と文 津山恵子)

津山恵子 プロフィール
ジャーナリスト。専修大文学部「ウェブジャーナリズム論」講師。ザッカーバーグ・フェイスブックCEOやマララさんに単独インタビューし、アエラなどに執筆。共編著に「現代アメリカ政治とメディア」。長崎市平和特派員。元共同通信社記者。
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