台湾防衛の約束は「愚か者のすること」
トランプは、ウクライナ戦争に対してだけではない。ズバリ、台湾に対しても「見捨てる」というような発言をし続けてきている。
大統領選挙中の昨年7月、「台湾はもっと防衛費を払うべきだ」と発言。さらに、「台湾はわれわれの半導体ビジネスを盗んだ。彼らはわれわれに防衛を求めているが、防衛の費用は払っていない」と、不満をぶちまけている。
ともかく、バイデンのすべてを否定したいがため、バイデンがした台湾防衛の約束に対し、「愚か者のすること」とまで言い放った。
幸い、日本に対しては、防衛費の増強を要求したものの、ここまでの発言はしていない。ただし、「自分の国は自分で守れという言い方をしているので、日本防衛に乗り気でないことは確かだ。
先の石破総理との首脳会談では、「同盟国である日本の防衛のために、米国の抑止力・防衛力を100%供与する」と明言したが、それは口先だけの話だろう。
「台湾海峡の平和と安定が不可欠」は空手形
石破首相は、日本のトップのなかで、地政学、安全保障、そして軍事にもっとも詳しいとされるが、日本の安全保障に関しては、確固たる見識、政策を持ち合わせているとは思えない。日米豪印の「GUAD(クアッド)」があるとしても、それは一つの国際協力の枠組みであって、安全保障を担保した同盟ではない。
そのため、日米首脳会談では、1兆ドルという対米投資の大風呂敷を広げた。これは、いわゆる「反社世界」で言う「みかじめ料」である。結果として、共同声明では「台湾海峡の平和と安定が不可欠」というコメントを引き出しが、そんなものは“空手形”にすぎないだろう。
トランプは、朝令暮改男でもある。日米首脳会談の共同声明など尊重する気などまったくないのは明白だ。すでに、日本に対しても台湾に対しても関税を課すことを表明している。
台湾は、ここ数年、軍事予算を拡大してアメリカの武器を購入してきたが、トランプ政権発足とともに、日本同様アメリカ投資を強め、アラスカのLNGも大量に買う姿勢を見せている。
要するに、「アメリカよ、見捨てないで」ということだ。
トランプは台湾の半導体さえも敵視する
それにしても、トランプは中国、韓国、日本、台湾という東アジアに対する認識、知識が著しく低い。台湾、韓国、日本が先進国(地域)であるなど夢にも思っていない。
とくに、台湾に対しては、なぜTMSCのような世界最先端の半導体ファウンドリがあるのかわかっていない。
そのため、1月末に鉄鋼・アルミ関税を発表するとともに、とくに台湾に関して「半導体製造業はすべて台湾に逃げた」と語り、台湾半導体に100%関税を課すことをほのめかした。
「われわれの希望はこうした産業の国内回帰であって、バイデンが実施したような何十億ドルもの補助金を台湾の企業に出すようなばかげたことはやりたくない」と述べた。
しかし、TSMCはすでに650億ドルを投資してアリゾナに3つの半導体製造工場を建設し、さらに投資を増やすとしているのに、この言い方はない。
台湾「放置」「切り捨て」はもっとも現実的
もはやトランプの安全保障政策はデタラメと言うほかない。これで、もしウクライナ戦争が本当に停戦すれば、台湾、日本の悪夢は現実化する。中国の台湾侵攻、尖閣諸島強奪に、十分な可能性が出てくる。
そんななか、日本国内では、トランプの4年間さえ、なんとか乗り切ればアメリカは元に戻る。ここは「臥薪嘗胆」だという見方がある。とくに石破政権はそう見ているようだ。というか、いまの日本政府にとっては、それ以外の選択肢は考えられない、考えるのも嫌だということのようだ。
しかし、そんなことでいいのだろうか?
アメリカ国内の動きを見ると、トランプの台湾「放置」あるいは「切り捨て」は、トランプ固有のものではなく、じつは、現実的にそれ以外に選択肢がないのではないかという見方が強い。
もちろん、中国の出方次第だが、もし、中国が武力ではなく、包囲・封鎖によって台湾を併合をしたら、手の出しようがないというのだ。
この続きは3月28日(金)発行の本紙(メルマガ・アプリ・ウェブサイト)に掲載します。
※本コラムは山田順の同名メールマガジンから本人の了承を得て転載しています。

山田順
ジャーナリスト・作家
1952年、神奈川県横浜市生まれ。
立教大学文学部卒業後、1976年光文社入社。「女性自身」編集部、「カッパブックス」編集部を経て、2002年「光文社ペーパーバックス」を創刊し編集長を務める。2010年からフリーランス。現在、作家、ジャーナリストとして取材・執筆活動をしながら、紙書籍と電子書籍の双方をプロデュース中。主な著書に「TBSザ・検証」(1996)、「出版大崩壊」(2011)、「資産フライト」(2011)、「中国の夢は100年たっても実現しない」(2014)、「円安亡国」(2015)など。近著に「米中冷戦 中国必敗の結末」(2019)。
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