2025年4月22日 COLUMN 山田順の「週刊 未来地図」

ついに「トランプ不況」に突入! 世界の株価はこのまま暴落に向かうのか?(下)

トランプの頭の中にある関税絵図は“妄想”

 ここで、「タリフマン」(関税男)の頭の中をのぞき、自動車関税に関する考え方をまとめてみよう。
 トランプは、こう考えているのだろう。
「クルマに高関税をかければアメリカに自動車を輸出している国は、仕方なく工場をアメリカに移してアメリカでの現地生産に切り替える。また、アメリカの消費者は関税で高くなった輸入車から メイドインUSA車に乗り換える。こうしてアメリカのクルマ産業は復活し、ラストベルトは繁栄を取り戻す」
 言うまでもないが、こんなうまい話があるわけがない。フツーに考えれば、これが“妄想”であることは容易にわかる。
 まず、これを実施すればクルマ輸出国は報復関税をかけてくるので、アメリカ車は海外で売れなくなる。国内はと言えば、高くなった輸入車と元から高いアメリカ車のどちらも売れなくなり、買い控えが起こる。賢い消費者なら、トランプ政権が終わるまでは新車は買和ないだろう。
 トランプは中国敵視政策をしていると思われている。しかし、中国車は元からアメリカ市場に参入していないのでダメージはない。そればかりか、アメリカ以外の市場で競争力を増し、とくにEVでは1人勝ちになる可能性がある。
 これは自動車だけの話ではない。ほかのあらゆるモノに言えることだ。関税で物価が上がり、個人消費は確実に落ち込む。そうなれば、経済はリセッションの坂を転げ落ちる。

トランプ関税は感情的で思慮が足りていない

 トランプは、自分をナポレオンになぞらえるほどの「自己愛男」(ナルシスト)で、「やってきたことはすべて正しかった」(Trump Was Right About Everything)と書かれたキャップを34.99ドルで売り出す男だ。
 関税をかけて強いアメリカが戻ってくる(America is Back)という妄想を信じ、それをやっている自分に酔い知れている。
 それにしても、トランプの関税政策は、論理の一貫性がなく、恣意的、感情的でありすぎる。たとえば、カナダに課した鉄鋼・アルミ関税25%に、オンタリオ州が報復としてアメリカに供給する電力に25%の追加料金を課すと表明すると、怒って「さらに25%を課して50%にする」と言い出した。
 ところが、これを即日撤回して、元の25%に戻してしまったのである。なぜか?
 トランプは関税をかけることに酔って、アルミを生産するには大量の電力がいることを知らなかったからだろう。アメリカはカナダから大量のアルミを輸入しているが、それは生産コストが圧倒的に安いからだ。
 アルミ精錬業の盛んなケベック州は、豊富な水による水力発電のおかげで電気料金は全米平均の半分ほど。これがアルミの価格に大きく影響している
 トランプは、ともかく輸入アルミに関税をかければ、アメリカのアルミ産業が復活すると思ったのだろう。本当に思慮が足りないとしか言いようがない。

自動車関税に続いて「相互関税」も迷走

 トランプ関税の目玉とも言えるのが、自動車関税の強化ともに4月2日に予定されている「相互関税」である。
 これまでトランプは「相手が課すのと同じ関税を相手にも課す。それこそ公平だ」と口を酸っぱくして言ってきた。
 3月16日、エアフォースワンの機内で記者団に向かい、「4月2日はわが国にとって『解放の日』になる。愚かにも他国に明け渡してきた富を取り戻すからだ」と、得意面々に語った。
 ところが、ここにきて、その枠組みがまだできていないことがわかってきた。
 要するにどの国のどの物品に対してどのように課すのか?が決められないというわけだ。なぜなら、相手国の関税率と同率にするだけに止まらず、非関税障壁も考慮するとされたからだ。
 当初は、貿易赤字国に対して、一律関税を課す「一斉攻撃」の予定だった。しかし、そうともいかないとなったようだ。
 3月22日、ブルームバーグは大統領補佐官の側近の話として、「既存の全世界一括適用案よりは、より集中的なかたちに進んでいる」と伝えた。つまり、一部の国・地域は除外される可能性もあること。また、産業セクターによっては除外されるものも出てくるということのようだ。
 とはいえ、相互関税が多くの国々、とくに日本のようなアメリカにとっての貿易赤字国にとっては、かなりのダメージになるのは間違いない。もちろん、同等のダメージをアメリカにももたらす。(つづく)

この続きは4月24日(木)発行の本紙(メルマガ・アプリ・ウェブサイト)に掲載します。 
※本コラムは山田順の同名メールマガジンから本人の了承を得て転載しています。

山田順
ジャーナリスト・作家
1952年、神奈川県横浜市生まれ。
立教大学文学部卒業後、1976年光文社入社。「女性自身」編集部、「カッパブックス」編集部を経て、2002年「光文社ペーパーバックス」を創刊し編集長を務める。2010年からフリーランス。現在、作家、ジャーナリストとして取材・執筆活動をしながら、紙書籍と電子書籍の双方をプロデュース中。主な著書に「TBSザ・検証」(1996)、「出版大崩壊」(2011)、「資産フライト」(2011)、「中国の夢は100年たっても実現しない」(2014)、「円安亡国」(2015)など。近著に「米中冷戦 中国必敗の結末」(2019)。

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