2025.03.13 COLUMN 山田順の「週刊 未来地図」

山田順の「週刊 未来地図」今後ドルはどうなるのか? なぜトランプはFRBを敵視するのか?(前編 下)

金利を下げればドル安で貿易赤字は解消する?

 では次に、なぜトランプが金利を下げることに固執するのか?そうすれば景気がよくなると、なぜ思い込んでいるのかを考察したい。
 トランプは、ともかくアメリカの貿易赤字を解消することが、MAGA達成の一番地だと考えている。そのための関税であり、低金利である。もともとが借金で物件転がし、不動産投資をしてきた不動産だから、金利は低ければ低いほどいいと思い込んでいる。
 そこに、金利を下げればドル安に向かう。そうすれば輸出増となって貿易赤字が減ると知って、金利引き下げに固執しているのだ。
 ただし、ドル安が貿易収支を改善させるとは限らない。また、仮に低金利でドル安に誘導できたとしても、現在のアメリカ経済の構造(製造業がほとんどない)を前提とすると、インフレが加速するので、逆にデメリットのほうが大きいかもしれない。
 もう1つ、トランプが金利引き下げに固執する理由は、もともとFRBが嫌いだからである。トランプはFRBをただの金貸しにしか思っていない。その金貸しになぜアメリカ政府は従わなければならないのかと不満タラタラなのである。だから、国家がビットコインを備蓄するという構想まで打ち出している。

アメリカ政府はFRBの株を持っていない

 FRBというのは、世界に類を見ない特殊な中央銀行である。それは、中央銀行といっても、各国の中央銀行とは異なり、政府が株を持っていないからだ。日本銀行の場合は、日本政府が株式(正確には出資証券)の約55%を保有しているが、アメリカ政府はFRBの株式をまったく所有していない。
 また、FRBは銀行というより、金融システム(制度)であって、そのシステムを、全米各地の12の連邦準備銀行(Federal Reserve Banks)が中央銀行業務を行いながら構成している。だから、銀行(bank)という名称ではなく、FRB = Federal Reserve Boardなのである。したがって、日本語では「米連邦準備制度理事会」と訳されている。
 以下、経済書に書かれている簡単な解説を記すと、およそ次のようになる。
《FRBは、1913年の連邦準備法(Federal Reserve Act)を根拠法として設立されたアメリカ合衆国の中央銀行制度。この制度は、正式には「FRS」(Federal Reserve System:連邦準備制度)と言い、ここで、アメリカの金融政策が決定される。本部は首都のワシントンD.C.に置かれ、7名の理事(うち議長1名、副議長1名)から構成されている。FRBの傘下には、12の地区に連邦準備銀行(Federal Reserve Banks)があり、ここが実際の中央銀行業務を行っている》

FRBは実質的に民間企業、民間金融機関

 それにしても、なぜアメリカが、このような変則的な中央銀行システムになっているのか? よくわからない。また、これに関して明確に説明されたものは、陰謀論以外にない。
 前記したようにアメリカ政府自体はFRBの株式を所有していないし、そこに出資している(=株式の所有)のは、各地の連邦準備銀行によって管轄される個別金融機関だけである。さらに、個人や非金融機関の法人は連邦準備銀行の株式を所有できないことになっている。
 このような銀行を、はたして本来の中央銀行と呼べるだろうか?
 たとえば、日本の中央銀行である日銀は、出資証券をジャスダック市場に上場している。したがって、新聞の株価欄を見れば日銀の毎日の株価がわかる。日銀の資本金は1億円と日本銀行法により定められていて、そのうちの約55%は政府出資であり、残りは民間等の出資となっている。
 日本銀行法では、「日本銀行の資本金のうち政府からの出資の額は5500万円を下回ってはならない」と定められている。
 ただし、日本銀行は株式会社ではなく「認可法人」なので、発行されているのは株式ではなく、正確には「出資証券」である。また、所有者に議決権は与えられておらず、日本銀行法によりそのあり方が定められている。
 とはいえ、約55%の持分があり、日銀法がある以上、日本政府の支配権は日銀に及んでいる。
 ところが、FRBは完全に民間企業であるので、どの程度アメリカ政府の支配権が及ぶのかよくわからない。少なくとも、金利の決定などの主要金融政策に置いて、大統領の権限は及ばない。人事などは議会の承認が必要だ。12の地区の連邦準備銀行で構成されているのは、アメリカが連邦制による地方分権国家だからという。

なぜFRBはドル紙幣を発行できるのか?

 ここで、中央銀行がなぜ政府から独立した存在でなければならないかを記すと、通貨発行権の問題に行き着く。本来なら、通貨発行の権限は政府が持っていてしかるべきである。
 しかし、そうなると政府が際限なく貨幣を発行してしまう可能性がある。すると、貨幣の価値は落ち、インフレが嵩じて、国民生活が破壊されてしまう。そのために、「物価の番人」「金利の番人」として、中央銀行がつくられ、通貨発行権は中央銀行に託ストいうシステムができあがった。
 現在、世界のほとんどの国で、このようにして貨幣が発行されている。
 FRBもこの点では同じである。ドルは、本来ならアメリカの財務省が発行することになるはずだが、実際には、ドル紙幣を印刷して発行する権限はFRBに与えられている。
 これは、日銀が円紙幣の発行権を持つのと同じである。

この続きは3月14日(金)発行の本紙(メルマガ・アプリ・ウェブサイト)に掲載します。 
※本コラムは山田順の同名メールマガジンから本人の了承を得て転載しています。

山田順
ジャーナリスト・作家
1952年、神奈川県横浜市生まれ。
立教大学文学部卒業後、1976年光文社入社。「女性自身」編集部、「カッパブックス」編集部を経て、2002年「光文社ペーパーバックス」を創刊し編集長を務める。2010年からフリーランス。現在、作家、ジャーナリストとして取材・執筆活動をしながら、紙書籍と電子書籍の双方をプロデュース中。主な著書に「TBSザ・検証」(1996)、「出版大崩壊」(2011)、「資産フライト」(2011)、「中国の夢は100年たっても実現しない」(2014)、「円安亡国」(2015)など。近著に「米中冷戦 中国必敗の結末」(2019)。

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