
国家間を規制する国際法が変更を迫られる
河東コラムは、次のような歴史的な事実を述べ、トランプのアタマが旧時代であることを指摘はするが、それがおかしいとは言ってはいない。むしろ、かえって新しい(「トランプ新世」と表現)のではと思わせる。
《アメリカはほかならぬデンマークから現在のバージン諸島を1917年に2500万ドルで購入したし、19世紀初めにもルイジアナ、フロリダなどをフランス、スペインから購入。有名なのはアラスカで、クリミア戦争で窮したロシアから1867年にわずか720万ドルで買収。ロシア人は今でもこれを惜しんでいる》
《「主権国家」とその不可侵性が絶対視されるようになったのは、1648年に欧州の30年戦争を終わらせたウェストファリア条約以降の話だ。それ以前、中世ヨーロッパでは領土は王家所有の領地=「不動産」扱いで、王家Aが王家Bに王女を嫁に出すときには、領土を結納として付けてやった。》
《要するに、トランプ新世が意味するものは、主権国家同士の関係を律するものとして形成されてきた国際法が、その根本思想からして変更を迫られるということだ。》
簡単にまとめよう。トランプは、知識も教養もない。ゆえに、国家がなんたるかも知らない。国家や領土は単なる物件、不動産と同じで売り買いできる。この世界全部がディール案件と思っている。つまり、彼のアタマの中には国境などない。
アメリカはハイテクとネットワークの帝国
さて、話を戻す。
トランプのアタマの中はともかく、いまのアメリカは世界覇権を失いつつあるのだろうか? そして、いまの世界はアメリカがリーダーシップを喪失した「Gゼロ」なのだろうか?
前記したように、私はそうは思っていない。アメリカの世界覇権は弱まっているが、いまだに十分強い。したがって、間違いだらけのトランプがいなくなれば復活できるはずだ。
トランプは、鉄鋼やクルマなどの製造業の衰退を見て、「MAGA」を唱えているだけだ。よくよく考えれば、この21世紀の産業は、製造業がリードしているのではない。すべては、ハイテク産業、コンピュータベースの情報産業が仕切っている。
そして、それを握っているのは、「GAFAM」である。つまりアメリカは、ハイテクとネットワークの情報帝国であり、この分野では世界中が束になってもかなわないのだから、覇権を失うなどということがありようはずがない。
経済力、軍事力、金融力、すべてにおいて「超大国」
現在、世界のGDPのうち、アメリカは約25%(約28兆ドル)を占めている。これに対抗できる国はなく、2位の中国は約15%(約18兆ドル)。日本は約4%(約4.2兆ドル)にすぎない。ウクライナ戦争の停戦協議で大国のように振舞っているが、ロシアは約2%(約2兆ドル)にすぎず、アメリカの10分の1以下である。
もし、トランプが本気なら、ロシアなど手もなくひねれるのだが、核保有国だけにそうできない。ロシアに関しては、トランプはバイデンよりも弱気で、全く不動産屋らしくない。
経済力ばかりか、アメリカは軍事力でも桁違いの超大国である。GDPの約9%を軍事費につぎ込み、その額9680億ドル。世界の軍事費シェアの4割を占めている。2位の中国は2350億ドル、3位のロシア1459億ドルを合わせてもアメリカの半分にも達しない。
さらに、アメリカには、世界の基軸通貨としてのドルがある。決済通貨にドルが占める割合は約88%、各国が外貨準備として保有する通貨に占める割合は約60%である。
この状況で、なぜ、アメリカの世界覇権が消滅していると言えるだろうか。 「Gゼロ」などというのは、政治学者の戯言、単なる願望にすぎない。
トランプがいなくなって初めてアメリカ復活
トランプがどんなに馬鹿げたことをやろうと、世界中の人々が、マクドナルドやスタバに見向きもしなくなるはずがない。ディズニーランドに行かず、ハリウッド映画を見なくなるだろうか。アップル、グーグル、アマゾンなしで暮らせるだろうか?
ウクライナ戦争を見ても、アメリカが本当に高機能の武器を渡して使用を許せば、ロシア軍など簡単に打ち破れたはずだ。核兵器、空母、戦闘機、ミサイル、無人機、宇宙兵器—-どれをとってもアメリカ以上の軍事力を持っている国はいない。
というわけで、トランプの4年間でなにが起ころうと、アメリカ覇権は消滅しない。そして、トランプがいなくなった後、アメリカは“自由と民主主義の超大国”としてカムバックする。自由と民主主義、そして資本主義を基盤とするシステム以上のものが存在しない以上、こうなるのは必然ではないだろうか。
トランプがいなくなって、初めてアメリカは「MAGA」となり、「America is Back」(アメリカ復活)となるのだ。
【読者のみなさまへ】本コラムに対する問い合わせ、ご意見、ご要望は、
私のメールアドレスまでお寄せください→ junpay0801@gmail.com

山田順
ジャーナリスト・作家
1952年、神奈川県横浜市生まれ。
立教大学文学部卒業後、1976年光文社入社。「女性自身」編集部、「カッパブックス」編集部を経て、2002年「光文社ペーパーバックス」を創刊し編集長を務める。2010年からフリーランス。現在、作家、ジャーナリストとして取材・執筆活動をしながら、紙書籍と電子書籍の双方をプロデュース中。主な著書に「TBSザ・検証」(1996)、「出版大崩壊」(2011)、「資産フライト」(2011)、「中国の夢は100年たっても実現しない」(2014)、「円安亡国」(2015)など。近著に「米中冷戦 中国必敗の結末」(2019)。
RECOMMENDED
-

客室乗務員が教える「本当に快適な座席」とは? プロが選ぶベストシートの理由
-

NYの「1日の生活費」が桁違い、普通に過ごして7万円…ローカル住人が検証
-

ベテラン客室乗務員が教える「機内での迷惑行為」、食事サービス中のヘッドホンにも注意?
-

パスポートは必ず手元に、飛行機の旅で「意外と多い落とし穴」をチェック
-

日本帰省マストバイ!NY在住者が選んだ「食品土産まとめ」、ご当地&調味料が人気
-

機内配布のブランケットは不衛生かも…キレイなものとの「見分け方」は? 客室乗務員はマイ毛布持参をおすすめ
-

白づくめの4000人がNYに集結、世界を席巻する「謎のピクニック」を知ってる?
-

長距離フライト、いつトイレに行くのがベスト? 客室乗務員がすすめる最適なタイミング
-

機内Wi-Fiが最も速い航空会社はどこ? 1位は「ハワイアン航空」、JALとANAは?
-

「安い日本」はもう終わり? 外国人観光客に迫る値上げラッシュ、テーマパークや富士山まで








