2025年6月13日 COLUMN 山田順の「週刊 未来地図」

山田順の「週刊:未来地図」 「愛子天皇」歓迎の読売社説が大波紋!なぜ保守派は「男系継承」にこだわるのか?(完)

遺伝子解析による「日本人3系統説」

 Y染色体より、母から子へ受け継がれる「ミトコンドリアDNA」のほうが大事だという見方がある。ミトコンドリアにはわずかながらDNAが含まれ、これを「ミトコンドリアDNA」と呼んで解析することで、母系の血縁の有無がわるので、遺伝的なルーツを確認することができる。
 近年は、古代人のDNA解析が進み、従来考えられてきた日本人のルーツが「縄文人」と「弥生人」の混血による「日本人2系統説」ではないことがわかってきた。
 ヤマト王権が確立し、天皇家の支配が全国的になった古墳時代、日本には大量の朝鮮半島経由の渡来人がやって来ていた。
 彼ら(古墳人)の遺伝子が、日本人全体の25%を占めていることがわかり、「日本人2系統説」が、「日本人3系統説」に代わった。「3系統」とは、縄文時代の東南アジア系「縄文人」、北東アジアからの「弥生人」、そして極東アジアから渡来した「古墳人」の3系統である。
 これらを総合して、「3段階渡来説(3重構造モデル)」と言うのが近年の学説である。3つの祖先系統のDNAはそれぞれ現代の沖縄、東北、関西の人々に比較的多く受け継がれている。はたして、天皇家はどの系統に属するのか?遺伝子解析ができれば、これは判明する。

いないとする「女系天皇」はかつて存在した

「男系継承による万世一系」を正当化するために、日本では女系天皇は1人も存在しないとされてきた。
 女帝は「中継ぎ」とされてきた。しかし、歴史をよく見ると、女帝の母から皇位を継いだ女性天皇(つまり女系天皇)も存在した。
 天皇家は近親婚が多かったので、その面から見れば、母方、父方、両方の血統を受けた「両系継承」があった。
 たとえば、奈良時代の女帝、44代元正天皇の母は元明天皇で、父は天武天皇と持統天皇の子の草壁皇子。草壁皇子は天皇として即位していないので、明らかに女系天皇である。
 当時の律令の規定では、母親の血筋で内親王とされて即位しているので、これは明らかに女系による継承だったと言えるのだ。
 もちろん、近親婚があった昔と現代は違うが、保守派がなにがなんでも男系にこだわるのは、こうした歴史から見ても、頑迷すぎないだろうか。

女性は天皇になれない皇室典範の時代錯誤

 女系天皇を容認するかどうかは置いておいて、皇室典範の規定では、女性は女性であることだけを理由に天皇になれない。
 皇室典範第1条「皇位は、皇統に属する男系の男子が、これを継承する」は、天皇の血筋を父方から受け継いだ「男系の男子」のみが天皇になることを定めているからだ。
 これは、いくらなんでもおかしい。愛子さま待望論があろうとなかろうと関係ない、まさに時代錯誤の規定だ。
 男女の格差を示す「ジェンダー・ギャップ指数」(2024年)で、日本は146か国中118位。G7で最下位である。つまり、日本は女性の地位は諸外国に比べ圧倒的に低く、男尊女卑の国と見られているわけで、皇室典範の規定はこうした日本のイメージを助長している。

男性、女性であることよりも大事なことがある

 以上述べてきたこと踏まえると、国会審議は少なくとも、女性天皇を容認するために皇室典範第1条を変えることを優先すべきではなかろうか。そうして、愛子天皇を誕生さる。この方向に持っていくべきである。
 そうすれば、この老いたる国は明るさを取り戻す。愛子天皇誕生により、変われない日本は大きく変わるだろう。
 男系であることがそんなに大事だろうか。男性、女性という性別よりも、どんな方が天皇になられるかのほうが、国民にとってはるかに大事ではなかろうか。
 そして、最後にあえて言わせてもらえば、母から生まれた子どもは、間違いなくその母の子どもであり、出自を確かめる必要などないことだ。天皇が男性であろうと女性であろうと、また男系であろうと、女系であろうと、この事実は変わらない。こちらのほうが、男系遺伝子の継承より、より尊重されるべきことではないだろうか。
 世界で唯一の日本の皇統の伝統は、これからは女性が繋いでいくのだ。

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山田順
ジャーナリスト・作家
1952年、神奈川県横浜市生まれ。
立教大学文学部卒業後、1976年光文社入社。「女性自身」編集部、「カッパブックス」編集部を経て、2002年「光文社ペーパーバックス」を創刊し編集長を務める。2010年からフリーランス。現在、作家、ジャーナリストとして取材・執筆活動をしながら、紙書籍と電子書籍の双方をプロデュース中。主な著書に「TBSザ・検証」(1996)、「出版大崩壊」(2011)、「資産フライト」(2011)、「中国の夢は100年たっても実現しない」(2014)、「円安亡国」(2015)など。近著に「米中冷戦 中国必敗の結末」(2019)。

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