国連勧告に反論しカネを差し止めた政府
ここで、思い起こすのは、昨年10月、女性への差別撤廃を目指す国連の委員会が、日本に対し、皇位を男系の男子のみが継承すると定めている皇室典範を改正するように勧告したことだ。
このことは、日本のイメージにとって大きなマイナスだったが、政府は皇室典範の規定は女性差別には当たらないと反論した。そうして、日本の国連への拠出金を委員会の活動に使わないように要請したのである。
この政府の対応はどうみても異常だ。日本の伝統に照らして反論するのはいいとしても、拠出金の不使用要求は行き過ぎではなかろうか。「カネを出しているのだから口をは出すな」という態度は、先進国(?)とはとても言えない。
男系男子天皇への「中継ぎ」は女性蔑視
日本の歴史には、8人の女性天皇が存在している。そのうち、奈良時代の第44代元正天皇を、先代がやはり女性の元明天皇だったことから、前回記事で私は「過去に女系天皇は存在した」「女系天皇と言えるのではないか」と述べた。しかし、これはやはり無理筋で、保守派から徹底して、“無知”と非難された。
元正天皇の父は天武天皇と持統天皇の子の草壁皇子。草壁皇子は天皇として即位をしていないとはいえ、元正天皇はその血を継いでいるので、立派な「男系」であるからだ。
ただ、元正天皇は史上初めて未婚のまま即位した女性天皇であり、草壁皇子の男系の血を守るために意図的に婚姻を回避させられたことは疑いようがない。
つまり、次の男系男子天皇への「中継ぎ」に過ぎなかったのである。これは古代だから当然だが、いま言えば間違いなく男尊女卑、女性蔑視であり、いまこの時代においても、この伝統を守るべきなのだろうか。
保守派には、「女性差別などしていない」とし、女性天皇を容認する人間もいる。しかし、女系だけは絶対に認めない。となると、もし女性天皇が誕生したとしても、生涯独身を貫くという“暗黙のプレッシャー”を受けることになる。それを乗り越えて結婚して子を授かったとしても、その子は男子女子に関わらず、皇位を継げない。
女性天皇、女系天皇を認めようとした小泉政権
かつて、小泉純一郎内閣に設置された「皇室に関する有識者会議」は、女性天皇、女系天皇を容認する報告書を出した。
具体的には、「伝統的な男系継承を安定的に維持することは極めて困難で、女性天皇、女系天皇への道を開くことは不可欠」「皇位継承順位は天皇の直系子孫を優先し、男女を区別せず、年齢順にして長子優先とすべき」という内容だった。
また、現在、議論されている旧皇族男子の養子問題も、「旧皇族はすでに60年近く(当時)一般国民として過ごしており、これらの方々を皇族として受け入れることは、国民の理解と支持を得ることが難しい」とした。
この報告書に基づいて国会決議で皇室典範が改正されれば、当時3歳だった愛子さまに、将来の天皇となる道が開かれるはずだった。しかし、2006年9月に秋篠宮家に悠仁親王が誕生すると、すべては立ち消えになった。
有識者報告書を、保守派はいったんは受け入れていた。それが、悠仁親王誕生で一変した。となると、保守派は、日本の伝統を守るのが保守の本道であるなどと、本当に言えるのだろうか? 皇室を敬い、その伝統を守る気概が、本当にあるのだろうか?
この続きは6月27日(金)発行の本紙(メルマガ・ウェブサイト)に掲載します。
※本コラムは山田順の同名メールマガジンから本人の了承を得て転載しています。

山田順
ジャーナリスト・作家
1952年、神奈川県横浜市生まれ。
立教大学文学部卒業後、1976年光文社入社。「女性自身」編集部、「カッパブックス」編集部を経て、2002年「光文社ペーパーバックス」を創刊し編集長を務める。2010年からフリーランス。現在、作家、ジャーナリストとして取材・執筆活動をしながら、紙書籍と電子書籍の双方をプロデュース中。主な著書に「TBSザ・検証」(1996)、「出版大崩壊」(2011)、「資産フライト」(2011)、「中国の夢は100年たっても実現しない」(2014)、「円安亡国」(2015)など。近著に「米中冷戦 中国必敗の結末」(2019)。
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