イギリス人監督も大絶賛、俳優・浅野忠信のすごさ「海外は戦わなければ何も得られない」

ニューヨーク・アジア映画祭(NYAFF)にて、(左から)マーク・ギル(Mark Gill)監督と俳優の浅野忠信(photo: Chris Kammerud @cuvols)
世界の映画祭で高い評価を受けた映画「Ravens」。メガホンを取ったマーク・ギル(Mark Gill)監督は、「 “この映画を作ったのがイギリス人監督だとは気づかなかった” と言われると、本当に嬉しい」と語る。
日本を舞台にしながらも「外国人が撮った映画だ」と日本人の観客を置き去りにすることなく、伝説の写真家・深瀬昌久の半生を、美しい映像で描き切った。そして、そんな監督が大いに信頼を置いたのが、俳優・浅野忠信である。

今回はマーク監督と浅野にインタビューを行い、本作、また世界で評価される実力派俳優・浅野の魅力について探った。
◆ 「日本の観客にどう受け止められるか」
「Ravens」は、写真家・深瀬とその妻ヨーコとの関係を軸に、愛と芸術、そして人間が持つ葛藤を描いた作品。芸術家としての孤独や不安を、浅野が演じる深瀬と、彼の “内なる声” を象徴する巨大なカラスを通して映し出す。

「私は外国人監督として日本を撮るのではなく、日本の観客に受け止めてもらえる映画を作りたいと思っていました。だから日本人スタッフや浅野からのアドバイスには、いつも耳を傾けていたんです。正直、日本の観客にどう受け止められるかはとても神経質になっていました」
実際、日本公開の際には観客からポジティブな反応があり、大きな安心につながった。「日本の皆さんに受け入れてもらえたことにはほっとしました」
そのうえ海外上映でも大きな喜びを味わい、テキサス州オースティンで開催されたオースティン・フィルム・フェスティバルでは観客賞を受賞した。「初めてアメリカのオースティンで観客に見てもらったときは、本当に緊張しました。でも、500〜600人もの観客が笑ったり泣いたりしながら反応してくれて・・・映画監督としてこんなに嬉しい瞬間はありませんでしたし、大きな自信になりました」

主人公・深瀬の内面を投影する存在として巨大なカラス (マーク監督はヨミちゃんと呼ぶ) を生み出したのも監督のこだわりだ。深瀬という人物を描く上で「何かが欠けている」と感じ、日本神話を調べていたときに天狗の存在を知り着想したという。
深瀬という人物をただ語らせるのではなく、内なる声としてヨミちゃんを登場させたんです。このアイデアを思いついたとき、日本人のプロデューサーに『どう思う?』と尋ねると、即座に『最高だ』と返ってきました」

◆ 浅野忠信は「稀有な俳優です」
インタビューを行う中でマーク監督が何よりも熱く語ったのは、浅野忠信という俳優の特異な力。
「彼は素晴らしい仕事をしてくれました。とにかく私の好きなタイプの俳優であることに間違いありません。浅野は少ない演技で多くを語れる。カメラを理解し、映画づくりそのものを理解しているんです。非常に経験豊富で、常に周囲を観察している。フィリップ・シーモア・ホフマンのように、眉をひとつ上げるだけで多くを表現できる、そんな稀有な俳優です。脚本を渡したときに『完璧だよ』と言ってくれた瞬間には、私は本当に泣きそうになりました」

◆ ひたむきに挑戦
「まだまだいろんな夢が見られる」
今回、浅野が演じたのは天才写真家の深瀬。カメラマンとしての生涯を長い時間をかけて演じたことは、大きな手応えとなった。「主人公を久しぶりに演じて、役者としてまだ挑んでいない表現に向き合えた気がします。深瀬さんには本当に感謝していますね」

浅野は、日本の映像作品と並行しながらも20代の頃から海外撮影の現場に立ち、積極的に世界への挑戦を続けてきた。
「最初に海外に出たのは、オーストラリアで日本の映画を撮影をしたときです。現場はオーストラリアのクルーがほとんどだったんですが、それが僕にはあまりにも自然だった。若かったので『俳優っていろんな国に行かされるものなんだ』と思っていました。その後も自然に海外で撮影することが何度かあって、でも途中から “そうじゃない” と気づいたんです(笑)」
「そんな中で『ラストサムライ』のオーディションが日本で行われ、僕も参加しました。結果は落選で悔しい思いをしましたが、『まだまだいろんな夢が見られる』と感じられたんです。その後に『モンゴル』という作品をやらせてもらって、『一つひとつ真剣に、どの作品もチャンスだと思って臨もう』と改めて思いました」

その後「モンゴル」は第80回アカデミー賞・外国語映画賞にノミネートされ、2010年頃からはアメリカのエージェントとも契約。アメリカでの活動も本格化し、近年ではドラマ『将軍(Shogun)』で樫木藪重を演じ、2025年ゴールデングローブ賞・テレビ部門助演男優賞を受賞するなど、その努力は確かな成果となって結実した。
◆ 「海外の現場は、みんな本当に必死」
また、浅野は日本と海外の違いにもついて触れ、「圧倒的に環境が違う」と一言。「僕はクオーターで、アメリカの血が流れているので、アメリカではどんな映画づくりがされているのか気になっていました。実際に行ってみると、みんな本当に必死だった。日本では、大きな会社に所属していれば自然と仕事が舞い込んでくる。あまり考えなくても有名になり、仕事を続けられる。でも海外は違う。戦わなければ何も得られない。『これじゃ何も目指せない』と痛感しました」

だがその厳しさこそが、自らの表現を磨く大きな刺激になったといい、「その必死さが、僕の俳優魂を燃やしてくれました。海外に挑戦できて、本当によかったと思います」力強い言葉でインタビューを締めくくった。
取材・文/ナガタミユ
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