政府介入で無理やり給料を上げた結果の悪循環
日本が陥ったインフレは「コストプッシュ型インフレ」である。景気がよくて人々の消費意欲が高まり、モノやサービスの需要が増加するために起こる「ディマンドプル型インフレ」ではない。
コストプッシュ型インフレは、原材料費や人件費などのコストが上昇し、企業がそのコストを製品価格に転嫁することで起こる。つまり、円安による輸入物価の上昇が犯人である。しかし、それはもう終わった話だ。
輸入物価の上昇は、すでに製品価格に転嫁されている。
とすると、犯人はもう一つのコスト、人件費の上昇ということになる。日本の労働生産性は、長期にわたって低下を続けている。それを無視し、ここ数年、政府が賃上げに介入するという資本主義ではありえないことをやったため、人件費の上昇がついに物価上昇を招いたと言える。
その認識がなく、全政党が、バラマキという“目先対策”に走るのは異常であるばかりか、かえって経済を衰退させる。
経済運営をするなら、短期的政策と長期的政策を分けて、その役割分担をはっきりさせねばならない。しかし、今回の各党の対策は短期的視点しかなく、そもそもの現状認識がなっていないのだから、話にならないと言っていい。
インフレ抑制には政策金利の引き上げが必要
物価対策は、言い換えればインフレ対策である。インフレ対策というのは、インフレの抑制であり、経済学の常識では、中央銀行が政策金利を引き上げることが基本政策になる。
また、給付金や減税は、本来、インフレ対策にはならない。全政党が言うように、これで消費が喚起されるのなら、それによってインフレは加速してしまうからだ。
ところが、日本では、基本政策である政策金利を上げられない。あまりに国債残高が巨額で、金利を上げたら利払い費がかさみ、財政が逼迫し、最終的に破綻してしまう可能性が高いからだ。したがって、日銀は現在の政策金利(無担保コール翌日物の誘導目標)を0.5%に留めている。
アベノミクス以来、日銀は、インフレ目標を2%と言って量的緩和を続けてきた。しかし、それが達成され、物価上昇率が2%を超えたにもかかわらず、「基調的な物価上昇率はまだ低い」などとごまかして、金利を上げないできた。その理由は、ひとえに政府の財政サポートと、アベノミクスという失政の隠蔽のためである。
金利が0.5%で物価上昇率が3.0%を超えている状況では、どんなに賃上げをしても追いつかない。いくら現金を給付しようと、減税しようと、物価上昇が続く限り、現金所得は目減りする。それなのに、全政党とも、自党の政策こそが国民生活を救うと言っている。ジョークとしか思えない。
国債発行はもう限界で、これ以上の発行は無理筋
消費減税の財源論で、国民民主、れいわ、参政などが、「財源は国債発行でまかなう」と言っているのは、正気の沙汰とは思えない。なぜなら、国債の返還は税金であり、将来の増税を意味するからだ。
しかも、日銀が金利を上げられない状況を見ればわかるように、国債発行はもう限界である。すでに、日本国債の格付けは引き下げられ、かろうじて「A」格を維持しているが、「B」格転落もあり得る状況だ。
今年の4月、満期までの期間が30年の国債、40年の超長期債に猛烈な売り圧力がかかり、価格がみるみる下落するということが起こった。国債の信認が薄れ、買い手がいなくなったのだ。
これに慌てた財務省は、最終的に長期国債の発行を減額することになった。
こんな状況で、減税の財源のための赤字国債を発行したらどうなるか? 金利は一気に上昇し、債券市場は深刻なパニックに陥るだろう。このようなことにまったく触れず、「財源は国債発行で」と言うのは、口先だけの“言うだけ詐欺”である。
政治家の首を切らねば日本は再生しない
それにしても、今回の選挙の争点が、詐欺に等しい物価対策に絞られてしまったことは嘆かわしい。ついこの間まであれほど騒いだ「統一教会問題」「裏金問題」はどこに行ってしまったのか?
給付金、消費減税はやらないよりはやったほうがいい。しかし、各党が言っているやり方では、日本経済はさらに落ち込むだろう。
これを救う方法は、ただ一つ。民間経済に手を突っ込み、悪手ばかり連発する政府を縮小することだ。すなわち、議員数を減らし、その給与と歳出を大幅にカットする。同じく、公務員の数を減らし、給料とボーナスを大幅にカットする。さらに、余計な省庁などの政府部門を統廃合・縮小し、不要な行政法人などは解体する。そうすれば、必ず財源は生まれる。要するに、「小さな政府」を目指すべきだ。
トランプ政権はなにもかもデタラメだが、イーロン・マスクを起用して「政府効率化省(DOGE)」をつくり、連邦政府のスリム化を目指したことは正しかった。
しかし、日本ではそんなことを言い出す政治家は1人もいない。自分たちのクビを切らなければならないからだ。(了)
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山田順
ジャーナリスト・作家
1952年、神奈川県横浜市生まれ。
立教大学文学部卒業後、1976年光文社入社。「女性自身」編集部、「カッパブックス」編集部を経て、2002年「光文社ペーパーバックス」を創刊し編集長を務める。2010年からフリーランス。現在、作家、ジャーナリストとして取材・執筆活動をしながら、紙書籍と電子書籍の双方をプロデュース中。主な著書に「TBSザ・検証」(1996)、「出版大崩壊」(2011)、「資産フライト」(2011)、「中国の夢は100年たっても実現しない」(2014)、「円安亡国」(2015)など。近著に「米中冷戦 中国必敗の結末」(2019)。
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