米コメディー界に広がる“キャンセル”、ジミー・キンメル番組停止に著名人が反発

人気コメディアンのジミー・キンメルが司会を務めるABCの深夜トーク番組の無期限停止を受けて、アメリカを代表するコメディアンやトーク番組の司会者たちが一斉に反発している。バラク・オバマ元大統領、カリフォルニア州のギャビン・ニューサム知事や深夜トーク番組の伝説的司会者デビッド・レターマンなども即座に反論。言論の自由への攻撃だと非難する声が相次いでいる。20年以上続く番組の停止は、保守派活動家のチャーリー・カーク氏殺害に関する発言が理由。NBCニュースなどが19日、伝えた。

◆ 露骨な検閲であり、小さなことから始まる

ケーブル局コメディセントラルが放送する「ザ・デイリー・ショー」のジョン・スチュワートは、トランプ氏を「偉大なる父」および「親愛なる指導者」と誉め殺し。「政府公認の全く新しいデイリーショー。愛国心にあふれた従順な司会者、ジョン・スチュワートがお届けします」と紹介するナレーションでスタート。「今回も政権に迎合した楽しくて笑える番組です」と観客に語りかけた。

トランプ政権の介入によるキンメル降板について、「さて、一部の批判者は、この政権の言論への懸念は冷笑的な策略であり、薄っぺらいごまかしであり、前例のない権力集中と一元的な威圧を覆い隠す煙幕で、憲法に基づく共和制統治の実験とは無縁かつ冷酷に対立するものだと主張するかもしれない」「そう言う人もいるだろう。でも私は違う。素晴らしいと思う」と強烈な皮肉パンチを浴びせた。

CBSのトランプ政権への忖度により終了が決定している「レイトショー・ウィズ・スティーブン・コルベア」のスティーブン・コルベアは、キンメルとスタッフを支持すると表明。「これは露骨な検閲であり、常に小さなことから始まる」とメキシコ湾の改名を目指す政権の動きに言及。「もしABCがこれで政権を満足させられると思っているなら、彼らは悲しくも無知だ」

NBCのジミー・ファロンは木曜の「ザ・トゥナイト・ショー」で、「正直に言うと、何が起きているのか私にも分からない。誰も分からない」「しかしジミー・キンメルは知っている。彼は誠実でユーモアがあり、愛情深い男だ。彼が戻ってくることを願っている」と語り、番組が検閲に屈しないことを誓った。

コメディアンのワンダ・サイクスもインスタグラムで、トランプ政権は「ウクライナ戦争もガザ紛争も就任後1週間で解決すると豪語していたのにできなかった。しかし、言論の自由を1年で終わらせることには成功した」と痛烈に皮肉った。

マーク・マロンはTikTokで「これは政府による検閲だ。トランプ政権が自身に反対する声を上げる人々を標的にしている」として、「キンメルを標的にするなら誰だって標的にできる。行動を起こす時だ。解決策を考え、道を見つけ、団結するんだ。抵抗しろ。これが許されれば、終わりだ」と呼びかけた。　

◆ キメル降板に至った舞台裏

キンメルは15、16日深夜の「ジミー・キンメル・ライブ！」で、右派活動家のチャーリー・カーク氏殺害の容疑者とトランプ大統領の支持者を「MAGAギャング」と呼び、「MAGA勢力がカークを殺害したこの少年を自分たちとは無関係な人物だと決めつけ、政治的得点稼ぎに躍起になっている」と発言。キメル自身は、発言が文脈から切り取られたものだと弁明したが、右派批評家からの批判が殺到した。

19日付のCNNによると、事態が本格的に悪化したのは17日午後、米連邦通信委員会（FCC）のブレンダン・カー委員長が保守系ポッドキャストに出演し、ABC系列局の放送免許剥奪をほのめかしてから。その後、「ジミー・キンメル・ライブ！」を放送する局グループ、ネクスターが番組の放送中止を発表した。事情に詳しい関係者がCNNに明かしたところによると、カー氏がABCを所有・運営するディズニーが地域放送免許を失うリスクに直面していると公言したことは、ABC全体にとって「現実的で深刻な脅威」だったという。

CNNの取材に応じた複数の関係者によると、カー氏の17日の発言を受けて、ディズニー社員や「ジミー・キンメル・ライブ！」のスタッフらが殺害予告を受け始めた。彼らのメールアドレスや電話番号が個人情報をさらされる形でSNS上に拡散されたという。従業員と番組の広告主にとっての安全問題へと発展した段階で、ディズニーは決断に至った。