
■半年で270もの反環境、温暖化促進策を実施
トランプは、温暖化防止政策ではなく「温暖化促進政策」を、これでもかと実施している。
「1つの大きく美しい法案」によって、再生可能エネルギーへの転換は大きく後退せざるを得なくなった。なぜなら、クリーン電力の新設に対する減税、太陽光発電と風力発電に対する優遇措置がほぼなくなったからだ。
また、EVの導入を促進する各種の税額控除は、期限が2032年末から2025年9月末へと大幅な前倒しとなった。これは、実質的な廃止である。アメリカの道路を走るのは、従来のガソリン車でいいというのだ。
トランプのアタマの中には、「脱炭素」などという言葉はない。なにしろ、「掘って、掘って、掘りまくれ!」(Drill, baby, drill!)である。
アメリカで最大の環境保護団体とされる「NRDC」(Natural Resources Defense Council:自然資源防衛協議会)の調査によると、1月20日のトランンプ第2次政権発足後、7月17日までの間に発表された具体的な反環境措置は270項目にも及んでいる。
■環境保護庁は縮小、エネルギー庁は温暖化を否定
トランプは、環境を保護する、温暖化を防ぐ気などさらさらない。7月17日には、これまで大気汚染及び水質汚染対策として施行されてきた政府規制を「アメリカのエネルギー・経済安全保障の妨げになる」として撤廃する大統領令を出した。
そして、2日後の19日には、「EPA」(Environmental Protection Agency:環境保護庁)に対し、組織縮小計画の一環として、環境汚染有害物質の規制・除去などに取り組む「研究開発局」の閉鎖を命じた。
トランプはすでに、EPA職員1万6000人の23%を削減する大統領命令を出している。これと併せた研究開発局の閉鎖は、「掘って、掘って、掘りまくれ!」の推進策であり、温暖化を加速させる。
トランプはエネルギー省長官にクリス・ライトを起用している。ライトは水圧破砕法で石油や天然ガスを採掘する「リバティー・エナジー」(Liberty Energy)という企業のトップで、「掘って、掘って、掘りまくれ!」側の人間である。
7月23日、彼の指示によってつくられた報告書『A Critical Review of Impacts of Greenhouse Gas Emissions on the U.S. Climate』(温室効果ガス排出がアメリカの気候に与える影響に関する批判的レビュー)が公表された。
これは驚くべき報告書で、気候危機など存在しないという内容の科学的知見をまとめたもの。トランプ政権下では、地球温暖化を政府機関が公式に否定しているのだ。
■中国はなぜ「化石賞」を贈られないのか?
このようなアメリカに比べると、中国はまともに温暖化対策に取り組んでいる。習近平の命令一下、2030年にカーボンピークアウト、2060年にカーボンニュートラル達成を目標に、再生可能エネルギーへの転換、太陽光・風力発電の促進、CO2削減技術(CCUS:CO2の回収・利用・貯留)の開発普及、 EVの普及、炭素取引市場の拡充など、ほぼ全方面にわたって取り組んでいる。
中国が世界一の温室効果ガス(GHG)の排出国、石炭消費国、石炭火力発電国であることは、誰もが知っている。にもかかわらず、これまでの「COP」(Conference of the Parties:国連気候変動枠組条約の締約国会議)で、環境NGOから「化石賞」を贈られたことがない。
日本は何度も贈られているというのに、「ふざけている」と怒る向きがあるが、これは環境NGOの偏見ではない。
なぜなら、これまで中国は再生可能エネルギー転換を、世界のどの国よりも大幅に行ってきたからだ。しかも、そうした技術の開発普及に努め、中国製の太陽光パネル、風車、蓄電池、EVは、いずれも世界市場を席巻しているからだ。
この続きは9月26日(金)に掲載します。
※本コラムは山田順の同名メールマガジンから本人の了承を得て転載しています。

山田順
ジャーナリスト・作家
1952年、神奈川県横浜市生まれ。
立教大学文学部卒業後、1976年光文社入社。「女性自身」編集部、「カッパブックス」編集部を経て、2002年「光文社ペーパーバックス」を創刊し編集長を務める。2010年からフリーランス。現在、作家、ジャーナリストとして取材・執筆活動をしながら、紙書籍と電子書籍の双方をプロデュース中。主な著書に「TBSザ・検証」(1996)、「出版大崩壊」(2011)、「資産フライト」(2011)、「中国の夢は100年たっても実現しない」(2014)、「円安亡国」(2015)など。近著に「米中冷戦 中国必敗の結末」(2019)。
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