2025年10月19日 NEWS DAILY CONTENTS

アンディ・ウォーホルなど著名人の定宿だったNYの「チェルシーホテル」、実は数々の伝説の舞台となっていた【NY心霊スポット3】

観光都市・ニューヨークには、実は“心霊好き”の間で密かな人気を集めるスポットが点在する。古い豪邸、荘厳な教会、夜の街角・・・そこに眠る物語を辿れば、街のもう一つの歴史が見えてくる。ハロウィンシーズンを前に、ニューヨーク在住のSF&ファンタジー評論家・小谷真理さんが語る「ゴーストハンティングの世界」とは。

今回は、“幽霊ホテル”として知られる、チェルシーホテルと、劇場街ブロードウェイにまつわる逸話を紹介(前回のエピソード)。

◆ チェルシーホテル
血生臭い事件の舞台となり、幽霊ホテルとしても名高い

チェルシーホテル

チェルシーホテルは1884年に開業して以来、多くのアーティストやセレブリティーの定宿として知られてきた。歌手のボブ・ディランやレナード・コーエン、ジャニス・ジョプリン、マドンナ、画家のアンディ・ウォーホルなど、名だたる人物が滞在している。単なる宿泊施設というより、創作の拠点であり、文化の交差点だった。外観はゴシック調の赤レンガの建物、内部も当時のままの重厚で豪華なインテリアが残されている。その雰囲気はダコタハウスにも共通するものだ。

一方で、悲劇的な事件の舞台にもなった。最も有名なのは1978年、パンクロックバンド「セックス・ピストルズ」のシド・ヴィシャスと恋人ナンシー・スパンゲンの事件だ。ナンシーは刺殺体で発見され、シドが疑われたが、真相は解明されないまま彼自身も薬物の過剰摂取で死亡した。事件現場となった部屋は現在客室として使われておらず、二人の幽霊目撃談もほとんどない。それでも、この事件が「チェルシーホテル=幽霊ホテル」というイメージを決定付けたことは間違いない。

幽霊にまつわるエピソードとしては、「白い服を着た女が客室に立っていた」「鏡の中に女性の姿が映っていた」といったもので、いずれも古くから語り継がれている。

さらに近年のウェブ情報では、このホテルに泊まった若い客が「ここにはタイタニック号の生存者だった女性の幽霊が出る」と語ったという話が広まった。こうした伝説が生まれても不思議ではないほど、チェルシーホテル自体が“幽霊ホテル”の雰囲気をまとっているのは確かである。

豪華なゴシック調の建物や古風なインテリアは、幽霊たちが好む舞台のように思えてならない。もっとも、幽霊が現れるというより、ああいう雰囲気に包まれると人間のほうが“幽霊が出てほしい”と感じてしまうのかもしれない。だからこそ、それっぽい物語を生み出し語り継ぐようになるのかもしれない。

◆ ブロードウェイの劇場
幽霊とは切っても切れない劇場

ラジオシティーミュージックホール

ブロードウェイの劇場は、どれも幽霊話に事欠かないが、いちばん有名なのは、タイムズスクエアにあるパレス劇場(1564 Broadway) だ。1913年のオープン以来、「ここに立てば一人前」といわれるほどの名劇場で、数えきれないほどのスターが舞台に立った。この劇場に出る幽霊として特に有名なのが、1939年公開の映画「オズの魔法使い」のドロシー役で知られる大スター、ジュディ・ガーランド。圧倒的な歌唱力と存在感で映画・舞台・音楽の世界を席巻したが、私生活は波瀾万丈だった。アルコールと薬物依存に苦しみ47歳で急逝した彼女の幽霊は、前回紹介したダコタハウスにも出ると噂されている。

ブロードウェイから歩いてすぐ、ラジオ・シティー・ミュージック・ホール(1260 6th Ave.)の幽霊は、“劇場界の天才”と呼ばれたサミュエル・ロキシー・ロサフェルだ。ホリデーシーズンの定番「ザ・ロケッツ」によるラインダンスは、彼が舞踊団をセントルイスからニューヨークに招き入れ、ショーとして育て上げたもの。この劇場を世界的に有名にした立役者、ロサフェルの幽霊はトップハットに燕尾服姿。幽霊はいつも2階の彼の指定席まで歩き、その席で姿を消すとのこと。出没するのはロケッツの上演シーズンが始まる頃。華やかなショーを楽しんだついでに、2階席にロキシーがいないかチェックしてみるのも、もう一つのお楽しみだ。

写真・案内人/小谷真理

■次回は、最終回。ニューヨーク郊外の住宅地ウェストチェスターの伝説を紹介

■前回までの記事
ジョン・レノンも住んでいた高級アパート、実は有名な心霊スポットだった!【NY心霊スポット2】
NYで密かに人気、「ゴーストハンティング」で体験するもう一つのアメリカ史 | あの豪邸や教会も実は…【NY心霊スポット1】

案内人はNY在住のSF&ファンタジー評論家・小谷真理さん

本好きが高じてSFとファンタジーにのめり込み、評論家として活動。女性SFをフェミニズム批評で読み解いた『女性状無意識』で日本SF大賞を受賞し、学術書から児童向けの読書ガイドまで幅広く執筆している。長年、日本経済新聞夕刊で新刊書評を担当し、日本のポップカルチャーをフェミニズム批評で読み解く第一人者でもある。

若い頃からアメリカのSF大会に参加するため来米し、現地の書店で怪談や幽霊屋敷のガイド本に出会ったことをきっかけに心霊スポットに興味をもつようになった。現在はニューヨークに滞在し、観光の合間に心霊スポットを訪れながら、アメリカの歴史や文化を知る手がかりとして心霊スポットを訪れることを楽しみにしている。

X:https://x.com/KotaniMari
公式サイト:http://inherzone.org

                       
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