アメリカの確定申告(タックスリターン)は、日本と制度が大きく異なり、特にニューヨークやニュージャージー州在住者、多州勤務者、日本に資産や所得がある人にとっては注意点が数多くあります。今回は、国際税務を専門とする尾崎真由美会計士が、初めての人にも分かりやすく「知っておきたいポイント」を整理します。

専門家プロフィール

尾崎真由美
CPA
法学修士、経営学修士
国際税務を専門とし、特にFBAR対応に注力。罰金制度が厳しい海外口座報告分野において、迅速かつ丁寧な対応をモットーに、顧客の状況に合わせたサポートを提供している。
初めての米国確定申告者向けガイド
1)米国所得申告の全体(個人:Form 1040)
申告対象:居住者は全世界所得が対象。非居住者はアメリカでの所得のみ(Formは 1040-NR)
主な申告に必要な書類、関連フォーム
・W-2(給与)、1099-INT / DIV / B(利子 / 配当 / 売却)、K-1(パススルー)、1099-NEC(源泉徴収されていない収入)
・日本の収入がある場合は、源泉徴収票、日本で確定申告をしている場合は、日本の確定申告書、支払調書、証券会社に口座を保持する場合は年間取引報告書 等
・Schedule A(項目別控除)、Schedule B(利子配当)、Schedule C(自営業)、Schedule D(売却)
・海外:Form 1116(外国税額控除)、Form 2555(国外所得控除)、Form 8938(FATCA)、FinCEN 114 / FBAR(口座報告)
・ 通貨換算:原則USドル。外貨はアメリカ政府の定める年平均換算レートを使用
2)日本との関係(外国税額控除・二重課税防止)
・基本:アメリカ居住者が日本で納税 → Form 1116 で外国税額控除等を考慮
・優先順位の考え方:所得の種類別控除限度額(General / Passive など)、前年からの繰り越し控除額、日本での課税確定の書類(納付書・確定通知)を整理
・Form 2555(国外所得控除)との関係:国外所得控除を使うと同じ所得に外国税額控除は使えないのが原則。どちらが有利かは試算が必要
3)申告期限と延長
・連邦:通常は4月15日。国外居住者は自動的に2カ月延長(6月15日)だが利息は発生。Form 4868で最長10月15日まで延長可能(納税の延長ではない)
・予定納税:Form 1040-ES(4半期)。自営業やW-2以外の収入がある場合には、予定納税が必須
4)初心者の定番ミス
・居住区分(居住 / 非居住 / 部分居住)を誤る
・日本の所得・口座を未申告(FBAR / FATCA / 1116 / 2555)
・配偶者・扶養の取り扱い(Filing Status)を誤る
・為替換算の混在、書類未保存
・延長=納税猶予だと誤解
州特化型の州税完全攻略
1)税体系の差分
・ニューヨーク州:州個人所得税(IT-201 / IT-203)。ニューヨーク市居住者税はニューヨーク州申告内で計算。ヨンカーズ(Yonkers)は付加税あり
・ニュージャージー州:州個人所得税(NJ-1040=居住者 / NJ-1040NR=非居住者)
*市税は原則なし(ニューヨーク市のような恒常的個人市税はない)
2)非居住者・部分居住者(Part-Year)の申告
ニューヨーク州
・居住者:IT-201
・非居住者 / 部分居住者:IT-203(NY源泉配賦)。Statutory Resident(183日+PPA)要注意
・ニューヨーク市税は居住者のみ課税。勤務だけニューヨーク市でも居住していなければ、ニューヨーク市個人税はなし(ただしMCTMT 等は別)
ニュージャージー州
・居住者:NJ-1040
・非居住者:NJ-1040NR(NJ源泉所得のみ)
・2州またぎは配賦が鍵:給与は勤務地 / リモートワーク取扱いに注意(雇用主州の源泉と実態勤務地の整合)
3)州独自控除・クレジット例
・ ニューヨーク州:Empire State Child Credit、College Tuition Credit / Itemized Deduction、NY529関連、Yonkers Surcharge他
・ ニューヨーク市:NYC Resident Tax(累進)
・ニュージャージー州:NJ Earned Income Tax Credit(NJ EITC)、Property Tax Deduction / Credit、Child and Dependent Care Credit 等
・自営業者の特有論点:MCTMT(Metropolitan Commuter Transportation Mobility Tax:ニューヨーク市圏で一定以上の自営業純利益等に課税)。Sales Tax、ニューヨーク州 / ニュージャージー州の事業拠点配賦
4)州税と市税の違い
・ ニューヨーク州税:ニューヨーク州居住者全員
・ニューヨーク市税:ニューヨーク市居住者に上乗せ(申告は州申告内)
・ニュージャージー州税:市税は、ほぼなし(個人)
・給与源泉:雇用主州の法律と勤務実態でズレが出やすい → 確定申告で精算・住勤務実態の記録を残す
5)州の確定申告延長と予定納税
・ニューヨーク州延長:Form IT-370、予定納税:IT-2105
・ニュージャージー州延長:連邦延長が一般に認められる(必要に応じて州独自で支払い)
・予定納税:NJ-1040-ES
*いずれも延長は 「確定申告」のみ。不足税は納付期限までの支払いが必要
最新動向やお得情報など
1)日本の税金との相殺(Form 1116 / 外国税額控除)
・所得区分(Passive / General)ごとの限度額計算と前年からの繰り越し控除額の管理が肝心
・日米で所得区分の一致 / ズレに注意(配当・不動産所得・年金等)、書類(住民税 / 所得税明細・納付書)が必須
2)住宅・教育関連
・住宅:住宅ローン利息(連邦 Schedule A)、不動産税(SALT上限の範囲内)
・教育:Tuition関連の控除(AOTC / LLC)や529活用、学生ローン利息控除 等
3)海外居住者向け特例
・Form 2555(国外所得控除):Bona Fide Residence / Physical Presence Test。1116との両立制限に注意
・Foreign Housing:上乗せ控除の検討
・情報開示:FBAR / FATCAは課税ではなく報告義務。罰金が大きいので最優先で漏れなく申告が必須
4)申告漏れの修正(Amended Return)
・連邦:Form 1040-X
国外所得控除、外国税額控除や源泉調整、扶養 / 居住区分の誤りを訂正
・州:ニューヨーク(IT-201-X / IT-203-X)、ニュージャージー(Amended NJ-1040 等)
・書類整備:更正・還付・追徴いずれのケースも根拠資料と計算過程をまとめる
最新の税制改正&2026年申告トレンド
1)2025年分の注目ポイント(例示)
・インフレ調整に伴う標準控除・税率表の改定(毎年調整)
・ SALT上限(州税・地方税の10000ドル上限)の扱い → 2026年以降の動向が焦点
・Child Tax Credit・教育系クレジットの要件微修正の有無
・クリーンエネルギー系クレジットの実務要件(フォーム・書類)
2)2026年に向けたTCJA失効リスク管理(現行法ベース)
・個人の税率・標準控除・個人控除・扶養控除等で2018年以降の特例が2025年末で失効予定のもの多数
・ §199A(QBI)控除などの扱い見直しの可能性
→ マルチイヤーの所得・控除の“平準化”(収入前倒し / 繰延、寄附・医療費・教育費のタイミング)を年内に検討
3)デジタル申告の実践
・連邦・州ともe-fileが前提。支払いはオンラインで(IRS Direct Pay / 州ポータル)
・ID確認・詐欺対策(IP PIN、2要素認証)をセットで運用
4)ツール&プロの使いどころ
・個人向けソフトは単純ケースには有効
・海外資産・多州・事業・株式取引・暗号資産・PFICが絡む場合はプロ(税理士)の活用が節税につながるだけでなく監査のリスクを下げる。また、監査が入ったときにも最適な対応が可能
トラブル事例と締切直前の動き方
1)日本人に多いミス
・ニューヨーク市勤務=ニューヨーク市税がかかると誤解(居住が要件)
・リモートワーク日数の扱いを放置 → 州配賦がズレる
・日本の配当・投信売却益・年金の申告漏れ
・為替換算がバラバラ、根拠レート不明
・扶養・配偶者区分の設定ミス(ITIN / SSNの確認漏れ)
2)罰金・加算税が発生したケース
・Failure-to-File(無申告):月次で加算、上限あり
・Failure-to-Pay(滞納):月次で加算、延長しても納税が遅れれば発生
・Accuracy-Related(過少申告):通常20%
・情報開示不履行(FBAR/FATCA):高額の民事罰 → 最優先で適正化
3)失敗回避のためのチェックリスト
・居住区分(居住/非居住/部分居住)の確定
・日本の所得・税金・口座の網羅表を作成
・1116/2555/8938/FBAR の該当可否の判定
・ニューヨーク州 / ニュージャージー州配賦(勤務実態・日数・PPA / 183日)
・SALT・住宅・教育・クレジットカード / 医療・寄附の控除集計
・e-file用のID / ログイン・支払情報の準備
確定申告が間に合わない場合は?
1)まずやること(優先順位)
・延長申請:連邦Form 4868(ニューヨーク州は IT-370、ニュージャージー州は連邦延長の尊重+不足税の支払い)
・概算納付:延長は確定申告のみ。不足分は期限日までに支払い、利息・滞納罰を最小化する
・予定納税の見直し:今年の不足が見込まれるなら次期の予定納税額を速やかに調整する
2)何を先に集めれば申告を最速で出せるか
・所得書類の収集(W-2 / 1099 / K-1 / 取引履歴)
・海外関係(日本の確定申告書、源泉徴収票、配当・売却明細、口座残高、年間取引報告書 等)
・控除証明書類(住宅ローン利息明細 1098、学費1098-T、医療・寄附)
・ニューヨーク州 / ニュージャージー州配賦証憑(勤務日数・拠点・リモートワーク実態、賃貸契約 等)
3)最悪“申告は後日”でもダメージを最小にするコツ
・大きい所得・明確な税務論点から先に概算課税→当日納付
・海外関連の報告義務(FBAR / FATCA)は別途に締め切り・別窓口がある。遅延罰が重いので優先順位を上げる
・分割・自動引落など支払方法を早めに選択する(IRS / 州ポータル)
4)NY / NJ州の実務メモ
・ニューヨーク市税:ニューヨーク市居住が要件。年の途中で転居→部分居住期間の扱いに注意
・MCTMT:自営業者でニューヨーク市圏該当かを期中から確認する
・ニュージャージー州:固定資産税の控除 / クレジットは書類が命。非居住でもNJ源泉があればNR申告を忘れない
アメリカの確定申告は、「知らなかった」では済まされない制度です。ニューヨーク、ニュージャージー州在住者や日本に資産を持つ人は、基礎を押さえたうえで早めの準備を。正確な申告が、将来の安心につながります。
提供/尾崎真由美会計事務所
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