連載872 底なし円安の先にはハイパーインフレが!? 日本人自身が「資産フライト」(円売り)すれば…(下)
(この記事の初出は9月13日)
家計金融資産の1%でも動けば大インフレに
アベノミクスが始まって間もなく『ウォール・ストリート・ジャーナル(WSJ)』紙(2013年2月21日)は、次のような内容の記事を掲載した。
《日本には15兆ドルの個人金融資産があり、その6割が現預金として眠っている。そして、この銀行預金の大半は、国債に投資されている。しかし、今後、日本のインフレ率が上昇して、現預金の減価が明らかになると、これらの資産は海外資産に向かい出すだろう。
預金者がその5%をシフトするだけで、4000億ドル以上もの資金が流出する。このインパクトは、主にオーストラリアのような高金利国や新興国に波及するだろう。
日本人は向こう何年にもわたって、為替相場を動かす可能性がある。ドイツ銀行は、外国為替市場に「30年に1度」のシフトをもたらすと予測している。》
この見方にならえば、今後、日本人による「円売り」はますます進むはずだ。いまから10年前の記事とはいえ、この見方はいまも十分に通用する。
日銀が6月27日発表した2022年1─3月期の「資金循環統計」によると、日本の家計が保有する金融資産残高は3月末時点で2005兆円である。もし、この1%でもドル買いに動くとどうなるだろうか?
その額は約20兆円である。円安はさらに大規模に進むだろう。これまでの日本政府の為替介入を見ると、1991年以降で、円安進行時に実施された円買い介入額の累計は4.9兆円である。それを考えると、20兆円は途方もない額だ。ハイパーインフレとは言えないまでも、相当なインフレが到来するだろう。
日本人の預貯金志向は欧米に比べ異常
こんな状況なのに、この国の政府は、タカをくくっている。まさか、日本人自身が円売りに走るとは夢にも思っていない。日本国民によって、国債が売り浴びせられるなどとは、もっと思っていないだろう。
なぜなら、この国の国民はアベノミクスにコロっと騙されて、経済はうまく言っていると信じ、低金利、ゼロ金利下でも、今日までせっせと預貯金を続けてきたからだ。
日本人は本当に忍耐強い。
そのせいなのか、日本人の預貯金志向は異常と言える。多くの人々は、将来に漠然とした不安を抱きながら、将来への備えとして預貯金をしている。
日本人の個人金融資の構成比を見ると、「現金・預金」が5割以上に達している。これは、アメリカの家庭が「株式・出資金」や「投資信託」さらに「債券」などを大量に保有していて、現金・預金の割合が1割強にすぎないことから見ると本当に異常だ。
イギリスは3割弱、堅実な国民性を誇るドイツでさえ4割強である。
(つづく)
この続きは10月17日(月)発行の本紙(メルマガ・アプリ・ウェブサイト)に掲載します。
※本コラムは山田順の同名メールマガジンから本人の了承を得て転載しています。

山田順
ジャーナリスト・作家
1952年、神奈川県横浜市生まれ。
立教大学文学部卒業後、1976年光文社入社。「女性自身」編集部、「カッパブックス」編集部を経て、2002年「光文社ペーパーバックス」を創刊し編集長を務める。2010年からフリーランス。現在、作家、ジャーナリストとして取材・執筆活動をしながら、紙書籍と電子書籍の双方をプロデュース中。主な著書に「TBSザ・検証」(1996)、「出版大崩壊」(2011)、「資産フライト」(2011)、「中国の夢は100年たっても実現しない」(2014)、「円安亡国」(2015)など。近著に「米中冷戦 中国必敗の結末」(2019)。
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