連載1059 岐路に立つバイデン・アメリカ
「学生ローン」「人種優遇」停止で経済失速も? (下)
(この記事の初出は2023年7月7日)
大学を出なければ中間層の暮らしはできない
私の娘がアメリカで大学、大学院生活を送っていたのは、2000年代のはじめ。娘が入学したリベラルアーツのベイツカレッジの授業料は4万2000ドルだった。これに、寮費、教材費、食費、日本往復費などを含めると、最低で年間7万ドルかかった。当時、円は130円だったから、その負担は大変で、私は必死で仕事をした。
アメリカは実力に基づく「学歴社会」のため、大卒の資格がなければ中間層の暮らしなどできない。いや、学士(バチェラー)ではダメで、修士(マスター)が必要だ。高卒者や大学中退者は、低賃金のマニュアルレーバー(単純労働者)になるほか道はない。
そのため、貧困層、いや、中間層出身の学生でも、学生ローンを組んで大学に行く。
大学の業界団体カレッジ・ボードの調査「Trends in College Pricing and Student Aid 2022」によると、2022年の大学入学の平均授業料は4年制の公立大学で、授業料、寮費、教材費などを含めた総額は4万0550ドルとなっている。UCLAのような州立大学の場合、州内の住民は、この半分ほど済むがそれでも高い。
これが、私立大学となると、授業料を含めた年間の平均経費は5万0343ドルに跳ね上がる。現在のレート(ドル円=145円)で日本円にすると約730万円である。
中間層でも子供を大学に行かせられない
しかし、これは単なる平均値で、たとえばアイビーリーグでは、平均して年間8万ドルはかかる。私の従兄弟の息子はブラウン大学に1990年代に留学したが、当時で年間3万~4万ドルかかった。それが、先日、聞いてみると約8万5000ドルはかかるというから倍以上になっている。ちなみに、イエール大学、ハーバード大学も同じだ。
ハーバード大学の場合、年間の授業料が約5万3000ドル、これに寮+食費が約2万ドルで、合計で7万3000ドル。これに教材費などを加ええればやはり、最低で8万ドル(約1150万円)はかかる。
このような大学の費用高騰のなかで、アメリカの家庭の所得はどうなっているのだろうか? 連邦政府の統計を見ると、アメリカの家庭の所得の中央値は6万8703ドルである。これが、中間層の平均値とすると、とてもではないが子供を私立大学には行かせられない。公立大学へ進学させるのもかなり厳しいと言わざるを得ない。
ただし、名門私立には優秀なら親の収入に応じて授業料を減額する制度がある。「ニード型奨学金」(Need-based Scholarship)というもので、授業料等を払う人間(親権者)の収入が少なければ、それに応じて奨学金で学費を穴埋めするというもの。これを利用すれば、学生ローンを抱えなくても済むが、ただそれは優秀な学生に限ってである。
ただし、ニード型奨学金が認められる収入の額には上限があって、各大学でその額は異なるが、およそ12万5000から15万ドルである。これ以上の収入がある場合は、全額負担となる。
(つづく)
この続きは8月14日(月)発行の本紙(メルマガ・アプリ・ウェブサイト)に掲載します。
※本コラムは山田順の同名メールマガジンから本人の了承を得て転載しています。

山田順
ジャーナリスト・作家
1952年、神奈川県横浜市生まれ。
立教大学文学部卒業後、1976年光文社入社。「女性自身」編集部、「カッパブックス」編集部を経て、2002年「光文社ペーパーバックス」を創刊し編集長を務める。2010年からフリーランス。現在、作家、ジャーナリストとして取材・執筆活動をしながら、紙書籍と電子書籍の双方をプロデュース中。主な著書に「TBSザ・検証」(1996)、「出版大崩壊」(2011)、「資産フライト」(2011)、「中国の夢は100年たっても実現しない」(2014)、「円安亡国」(2015)など。近著に「米中冷戦 中国必敗の結末」(2019)。
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