「環境難民」「水没難民」は日本でも発生する
このように、温暖化によって生き物たちの生態系が大きく変わっているのに、私たち人間はこのままでいいのだろうか。温暖化対策が現在のような状況なら、もはや気温上昇は防ぎようがないので、「環境移住」するしか選択肢がない。
しかし、日本では「環境移住」という言葉すら使われておらず、ほとんど問題にすらされていない。
しかし、アジア、アフリカの熱帯地域では、すでに「環境難民」が大量に発生している。「UNHCR」(国連難民高弁務官事務所)によると、気候変動で故郷を追われ、ほかの地域に避難している人々は、年間平均2000万人以上に達するという。
たとえば、いま、リゾートアイランドとしての人気のインド洋の島国・モルディブは、海面上昇で国土が水没するとされ、今後、住民は島を離れざるを得なくなるという。つまり、モルディブ国民は「水没難民」になる。
モルディブは過去100年で、約19センチ、海面が上昇した。IPCCは、今後、今世紀末までに最大で82センチ上昇すると予測しているので、そうなった場合、モルディブは国土のほとんどが水没する。太平洋のツバルも同じ状況にある。
イエリアのタワマンを購入するリスク
海に囲まれた島国だから、日本は海面上昇の影響を大きく受ける。沿岸部にある砂浜の多くは後退・消滅し、主要都市の沿岸部は水没を免れない。つまり、日本でも「水没難民」が大量に出る可能性がある。
海面が1メートル上昇すると、大阪では、北西部から堺市にかけて海岸線はほぼ水没。東京では、堤防を高くするなどの対策をとらなければ、江東区、墨田区、江戸川区、葛飾区のほぼ全域が影響を受ける。
いま、豊洲や晴海などベイエリアのタワマンの価格が高騰しているが、こんな未来をわかっているのに、ここを住居として購入するのは無謀としか言いようがない。住むために長期ローンを組んで買うなど、やってはいけない。
現在放映中のNHKの大河ドラマ「光る君へ」は紫式部の物語だが、彼女が活躍した平安時代は中世温暖化の真っただ中の時代で、夏は現代と同じく酷暑だった。海水面も現在より約1メートル高く、上野の不忍池は海とつながっており、湯島天神の階段下はすぐ海で、かつては渡し舟が出ていたという。湯島の地名の由来は「海から見ると、まるで島のように浮かんで見えたから」という。
北海道へ丸ごと移転した岐阜県の酒蔵
最近知ったが、すでに北海道に丸ごと「環境移住」したビジネスがある。岐阜県中津川市にある明治10年創業の「三千櫻酒造」だ。
「三千櫻酒造」が、北海道東川町に移転したのは4年前。酒蔵の設備と施設、すべてを移転させた。
移転を決めた理由は、もちろん、温暖化による中津川市の冬の気温の上昇。中津川ではこの45年間で、3月の平均気温が約1.7度も高くなった。
この気温上昇の影響をまともに受けるのが、蒸し米と麹などを混ぜ発酵させる作業という。移転前までの「三千櫻酒造」では、中津川市の冬の冷たい外気を使い、低温管理を続けてきた。
しかし、平均気温の上昇により、その作業が困難になってしまった。
じつは北海道では、温暖化を見越して、移住を決める人々が増えている。外国人観光客のウインターリゾートと化したニセコ、半導体企業ラピダスの工場設立の千歳、北広島などは、すでに地価が大幅に高騰している。(つづく)

この続きは5月14日(火)発行の本紙(メルマガ・アプリ・ウェブサイト)に掲載します。
※本コラムは山田順の同名メールマガジンから本人の了承を得て転載しています。
山田順
ジャーナリスト・作家
1952年、神奈川県横浜市生まれ。
立教大学文学部卒業後、1976年光文社入社。「女性自身」編集部、「カッパブックス」編集部を経て、2002年「光文社ペーパーバックス」を創刊し編集長を務める。2010年からフリーランス。現在、作家、ジャーナリストとして取材・執筆活動をしながら、紙書籍と電子書籍の双方をプロデュース中。主な著書に「TBSザ・検証」(1996)、「出版大崩壊」(2011)、「資産フライト」(2011)、「中国の夢は100年たっても実現しない」(2014)、「円安亡国」(2015)など。近著に「米中冷戦 中国必敗の結末」(2019)。
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