日本政府の半導体投資は成功するのか?
それでは、こうした日本政府の半導体企業に対する投資は実を結ぶのだろうか?
TSMCの第一工場は、主力が12ナノ、第二工場は6〜7ナノというので、いずれも最先端ではない。とすると、単にファウンドリー(受託生産工場)というだけのことで、技術力、競争力が向上するということには結びつかない。
検討中の第三工場では、量産段階として最先端とされる3ナノの製造をするというが、台湾の本社工場では1.4ナノを開発中という。となると、日本の工場は単なる下請けである。
半導体製造において重要なのは、開発・設計に特化したファブレスである。このファブレスの最先端企業が日本にはない。現在、世界一注目されているNVIDIA(エヌビディア)はファブレスであり、半導体産業で圧倒的に利益を上げられるのは、最先端の半導体を開発・設計したファブレスであって、ファウンドリーではない。
NVIDIAのAI向け半導体の売価は日本円で500万円を軽く超えるが、製造コストは50万円ほどに過ぎない。
ラピダスは最先端2ナノを製造できない
TSMCより危惧されるのが、新半導体会社ラピダスである。この会社は半導体製造装置大手の東京エレクトロンでトップを務めた東(ひがし)哲郎氏が、トヨタやソニー、NTTなど国内8社から出資を募って設立され、最先端の2ナノの量産を目指すという。
しかし、その技術的裏付けはなく、2ナノを開発中のIBMに技術協力を求めるという。しかし、IBMはファブレスのなかでも実績がほとんどなく、はたして本当に2ナノの開発・設計ができるのか疑問視されている。
また、いくら工場をつくっても半導体工場には大量の技術者が必要だが、その調達もおぼつかない。TSMCは、熊本工場に数百人規模の技術者を派遣するが、IBMはそこまでするだろうか。日本の半導体産業はすっかり衰え、日本に次世代を担う技術者がいないのだ。
日本の半導体産業がピークだったのは1980年代半ばである。その後、日米交渉によって斜陽化し、その度に政府は税金投入による投資を繰り返したが、エルピーダメモリに代表されるように、ことごとく失敗してきた。
日本の半導体産業の強みは製造装置にある
日本で生き残っている半導体産業は、いまをときめくAI用のロジック半導体ではない。ルネサスエレクトロニクスの主力製品は自動車積載用半導体であり、キオクシアの主力製品はスマホなどに使うメモリー半導体である。
ソニーの主力製品はイメージセンサーだが、これはTSMCからロジック半導体を供給してもらわなければつくれない。つまり、日本の半導体企業は、現在、アメリカで急成長しているNVIDIAのような最先端のロジック半導体企業とは違うのである。
ただし、製造装置や素材系では、日本の半導体産業は世界最先端であり、その存在感は揺るぎない。 東京エレクトロン、アドバンテスト、ディスコ、SCREENなど、一般的な地名度は低いが、関係者と投資家は一目も二目も置いている。よって、政府はこの分野に投資し、徹底的に強化すべきではなかろうか。
(つづく)

この続きは5月20日(月)発行の本紙(メルマガ・アプリ・ウェブサイト)に掲載します。
※本コラムは山田順の同名メールマガジンから本人の了承を得て転載しています。
山田順
ジャーナリスト・作家
1952年、神奈川県横浜市生まれ。
立教大学文学部卒業後、1976年光文社入社。「女性自身」編集部、「カッパブックス」編集部を経て、2002年「光文社ペーパーバックス」を創刊し編集長を務める。2010年からフリーランス。現在、作家、ジャーナリストとして取材・執筆活動をしながら、紙書籍と電子書籍の双方をプロデュース中。主な著書に「TBSザ・検証」(1996)、「出版大崩壊」(2011)、「資産フライト」(2011)、「中国の夢は100年たっても実現しない」(2014)、「円安亡国」(2015)など。近著に「米中冷戦 中国必敗の結末」(2019)。
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