この記事の初出は2024年6月4日
フランスのAI投資と習近平思想のAIの登場
欧州で特筆すべきは、フランスのマクロン大統領だろう。
昨年の夏、フランスは2030年までにAIに5億ユーロを投資するというAI国家戦略を発表し、世界のハイテク企業を誘致するともに、自国のAIベンチャーを育成すると宣言した。
その結果、昨年12月、ハイテクベンチャーの「ミストラルAI」がユニコーンの仲間入りし、今年になってマイクソソフトがフランス国内のデータセンターに40億ユーロを投入することを発表した。
気なるのは中国だが、この国だけはアメリカのメガテックの力は及ばない。中国には独自のメガテック4企業があり、「BATH」(バイドゥ、アリババ、テンセント、ファーウエイ)と呼ばれている。この4メガテックはいずれも生成AIの開発競争に参戦し、現在、独自のAI市場が形成されつつある。
やはり中国だと思うのは、中国国家サイバースペース管理局(CAC)が、習近平思想を学ばせた大規模言語モデル(LLM)を搭載する生成AIを開発したことだ。
「ファイナンシャルタイムズ」紙(FT)は、この生成AIを、「Chat GPT」をもじって「Chat Xi PT」と名付けて紹介した。「Xi」=「習」である。
生成AIで周回遅れ、やっと動き出した日本
現在、生成AIの開発戦争は日を追って激化している。 このまま放っておけば、世界はアメリカのハイテク企業に支配されてしまう。
と言っても、もうそうなりつつある。
「Open AI」は、4月15日、東京に世界で3番目の拠点をつくると発表した。日本語圏の市場を開拓するためだ。続いて、マイクロソフトも、日本国内のデータセンターの強化に4400億円を投じると発表した。
この動きに、周回遅れだった日本企業も、やっと動き出した。NTTとNECは、それぞれ自社開発の生成AIの企業向けサービスに乗り出すことを発表し、生成AI市場に新規参入した。同じく、KDDIは、国産の生成AIを開発する東京大学発のスタートアップ企業、「イライザ」を子会社化して、市場に規参入した。
5月15日、グーグルの年次イベント「Google I/O」で、スンダー・ピチャイCEOは、「今後、グーグルのサービスはAI一色になる」と語った。
「AIが人類を滅ぼす」が現実化する?
はたして今後、「AI革命」はどのように進んでいくのだろうか?
最後に紹介しておきたいのは、先週、ある地方紙に私が書いたコラムである。AIとの共生は、ディストピアをもたらすかもしれないのだ。
《「生成AI」の進歩が凄まじい。そのため、AIの危険性を警告する声が高まっている。先月、オープンAIが公表した「GPT-4o」は自然な会話が可能で、人知ですでに人間を超えている。AIの安全性を確保するための首脳会談も開かれた▼オープンAIは昨年、「超知能」を制御する部門を立ち上げたが、事業拡大を優先するとして解散した。これを不満として、部門責任者2人が退社。近い将来、AIが「人類の無力化、さらには人類絶滅を図る可能性がある」と警告した。AI研究の第1人者ジェフリー・ヒントンもグーグルを退社し、同様の警告を発している▼イーロン・マスクは「人とAIの共生」を目指し、脳にコンピューターを接続する「脳インプラント」施術を進めている。しかし、AIが感情を持てば人類の敵になる可能性がある▼古くは映画『ターミネーター』『マトリックス』、最近では『AI崩壊』『ザ・クリエイター/創造者』の世界が現実化する。『AI崩壊』では人類は生きる価値なしと判断された。日本はデジタル後進国だから滅亡しないというジョークがあるが、さすがに笑えない。》

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山田順
ジャーナリスト・作家
1952年、神奈川県横浜市生まれ。
立教大学文学部卒業後、1976年光文社入社。「女性自身」編集部、「カッパブックス」編集部を経て、2002年「光文社ペーパーバックス」を創刊し編集長を務める。2010年からフリーランス。現在、作家、ジャーナリストとして取材・執筆活動をしながら、紙書籍と電子書籍の双方をプロデュース中。主な著書に「TBSザ・検証」(1996)、「出版大崩壊」(2011)、「資産フライト」(2011)、「中国の夢は100年たっても実現しない」(2014)、「円安亡国」(2015)など。近著に「米中冷戦 中国必敗の結末」(2019)。
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