この記事の初出は2024年6月11日
結婚は事実婚、離婚はザラで再婚、再々婚が多い
すべてがオープンな社会、隠すところのない社会、それがスウェーデンで、デジタルガバメントはそれをオンライン上に移しただけということなのだろうか。それとも、デジタルによって、隠し事ができなくなったのか?
私が見たところ、前者としか思えない。
スウェーデンでもフィンランドでも、結婚(法律婚)するカップルが少ない。多くのカップルは同棲(事実婚)で暮らしている。また、お互いにすれ違うようになるとすぐ別れて、別の相手を見つける。「親同士の気持ちが離れてしまったら、子どもに悪影響を与える」というのだ。
だから、子連れ同士の再婚、再々婚が多く、家族は必然的に増えてビッグファミリーになる。しかし、それでも個人主義という、日本人の私にはよく理解できない社会である。この世界に自分の娘が行ってしまったので、私もこれを受け入れて暮らしている。
透明性は人々に不満をもたらし幸福度も下がる
なにもかもガラス張りの社会では、人々は「見られている」ことに苛立たないのだろうか。「水清ければ魚棲まず」といって、透明な世界は生きづらいのではないか。
所得、資産、住んでいる家、仕事まで丸見えである。これにより、社会がより平等になるので、いいことだという見方がある。
しかし、各種調査研究によると、透明性は人々に不満をもたらし、幸福度も下がるという。古い話になるが、カリフォルニア大学が2008年に、大学従事者の給料をオンラインで見られるようにしたところ、給料が低い従事者は昇給が滞っているとわかって不満を持ち、転職を考え出したという結果が出た。
ノルウェーでは2001年に、国民の納税記録をオンラインで匿名でも検索できる制度にしたところ、人々は自分の収入と他人の収入を比べ、収入が低い人間の幸福度は落ちた。そのため、ノルウェーは、匿名検索を2014年に廃止している。
それなのに、フィンランドもスウェーデンも個人の納税記録の公開を続けている。フィンランドにいたっては、デジタル化とは関係なく、100年以上前から分厚い台帳を閲覧できる制度になっている。それを考えると、フィンランド、スウェーデンは比較的格差が小さい社会と言えるのだろう。スウェーデンの高所得層に対する課税率は約60%と、他国と比べて群を抜いて高い。
なんの面白みもない無味乾燥世界の出現
ともあれ、ここまでデジタル化が進み、誰もがネットに接続して暮らすようになった現在、もはやプライバシーを持ち出すなど、時代遅れかもしれない。
問題は、完全な監視社会になったときに、監視する側は誰かということだろう。それが中国や北朝鮮のような国であったら、自由は限りなく奪われる。その意味で、民主国家である北欧諸国はマシと言えるだろう。
ただ、誰もが他人の情報にアクセス可能という「相互監視社会」は、やはり、なんとなく気持ち悪い。
いずれにせよ、すでに”全人類データベース”は出来上がっているだろう。グーグルやアップルのようなアメリカのビッグテックはすでにデータの収集を終え、アメリカ政府にそのデータを提供しているだろう。
そこで、もし、そのデータベースを人類全員が使えると仮定すると、これはもう、なんの面白さもない無味乾燥の世界になるのではないか。前記したように、どこかで偶然に誰かと知り合っても、端末でデータベースにアクセスすれば、その人間の履歴、属性はすべてわかってしまう。これでは、恋愛もできない。推理小説も成り立たない。ハプニングも起らない。
はたして、北欧福祉国家は今後どうなっていくのか? それを見極めることで、私たちの生き方は変わるだろう。

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※本コラムは山田順の同名メールマガジンから本人の了承を得て転載しています。
山田順
ジャーナリスト・作家
1952年、神奈川県横浜市生まれ。
立教大学文学部卒業後、1976年光文社入社。「女性自身」編集部、「カッパブックス」編集部を経て、2002年「光文社ペーパーバックス」を創刊し編集長を務める。2010年からフリーランス。現在、作家、ジャーナリストとして取材・執筆活動をしながら、紙書籍と電子書籍の双方をプロデュース中。主な著書に「TBSザ・検証」(1996)、「出版大崩壊」(2011)、「資産フライト」(2011)、「中国の夢は100年たっても実現しない」(2014)、「円安亡国」(2015)など。近著に「米中冷戦 中国必敗の結末」(2019)。
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