この記事の初出は2024年7月16日
日本はもともと飲食店が異常に多い国
日本は世界に比べて、飲食店の数が異常に多いと言うことをご存知だろうか?
かつて福岡県が「人口1000人あたりのレストラン数」(平成27年時点)を調べたところ、東京が6.22店でトップだった。ニューヨークは1.39店、北京は0.47店だから、東京の多さは飛び抜けていた。
米国のグルメマガジン「FOOD & WINE」の2024年の「Global Tastemakers awards」で、「世界でもっと飲食が楽しめる街」部門で、東京は第1位、大阪は第9位に選ばれた。東京が第1位の理由は、ミシュランの星付きレストランの数が世界最多の183店舗もあることはもちろんのこと、そうした高級店とラーメン店やストリートフードなどがシームレスに融合しているという食の環境が高く評価されたからである。
食を求めて訪日した外国人が驚くのは、狭い雑居ビルのなかに数多くの飲食店、バーなどがひしめいていることだろう。こんな光景は、一部のアジアの都市を除いて、日本だけにしかない。
このように、日本は飲食店の数が異常に多い。そのため、それだけでも過当競争になり、脱落する店が続出する。脱サラで飲食店をやる人間は多いが、成功例は少ない。
パクリですぐ飽和するレッドオーシャン
飲食店の過当競争を引き起こしている原因の一つに、日本人のパクリ好きがある。飲食店の場合、著作権とか原作権のようなものがないので、ある業態が流行ると次々に二番煎じ、三番煎じのものができる。ラーメン店でも居酒屋でも人気が出るメニューができると、すぐに同業者がそれをパクる。
近年のパクリの代表例が、「いきなり!ステーキ」ではないだろうか。メディアが取り上げてまさかまさかで人気が沸騰すると、「やっぱりステーキ」「カミナリステーキ」、さらには「あっ そうだステーキ」まで登場した。しかし、いまや完全に下火となった。
「高級食パン」もブームになった。
「乃が美」「銀座に志かわ」は、並ばないと買えないので評判になり、日本中に高級食パン店ができたが、その多くが閉店した。
このように見ると、日本の飲食業界は、もともと店舗数が多すぎるうえにパクリ横行ですぐ飽和してしまうという、完全な「レッドオーシャン」である。今後、食文化がどうなっていくかわからないが、さらに多くの飲食店が消えていくのは確実だ。
「サイゼリア」はなぜ利益を確保できるのか?
外食産業が落ち込んでいるなかで、1人気をはいていると言えるのが「サイゼリア」である。サイゼリアの各メニューの安さは破格で、それを維持して利益を確保、好実績を続けている。
サイゼリアが発表した2024年8月期の第2四半期累計(2023年9月~2024年2月)決算は、売上高が前年同期比24.8%増の1046億3400万円で、同四半期累計期間で過去最高。営業利益は59億3400万円で前年同期の9億0400万円から約6.5倍となり、大幅な増収増益である。
なぜ、サイゼリアだけ値上げもせずに、ここまで利益を出せるのか?
それは、サイゼリアがもう日本の飲食業ではないからだ。サイゼリアの好決算を支えているのは、中国を中心としたアジア事業である。アジア事業の売上高は372億9200万円と全体の4割ほどだが、営業利益は55億5600万円と全体の9割以上に上っている。たとえば、2023年12月~2024年2月の3カ月間の既存店売上高は、上海で前年同期比28.8%増、広州で33.4%増、北京にいたっては106.9%増である。それに比べて、国内事業の営業利益はわずかに3400万円の黒字にすぎない。
しかし、いくらサイゼリアでも、もう国内は値上げせずにはやっていけないだろうと言われている。円安の影響ももちろんあるが、イタリアンレストランに欠かせない欧州のオリーブオイルの不作と、それを輸入するに当たって紅海ルートではなく喜望峰経由ルートを使わざるをえないなどの問題が生じているからだ。

この続きは8月8日(水)発行の本紙(メルマガ・アプリ・ウェブサイト)に掲載します。
※本コラムは山田順の同名メールマガジンから本人の了承を得て転載しています。
山田順
ジャーナリスト・作家
1952年、神奈川県横浜市生まれ。
立教大学文学部卒業後、1976年光文社入社。「女性自身」編集部、「カッパブックス」編集部を経て、2002年「光文社ペーパーバックス」を創刊し編集長を務める。2010年からフリーランス。現在、作家、ジャーナリストとして取材・執筆活動をしながら、紙書籍と電子書籍の双方をプロデュース中。主な著書に「TBSザ・検証」(1996)、「出版大崩壊」(2011)、「資産フライト」(2011)、「中国の夢は100年たっても実現しない」(2014)、「円安亡国」(2015)など。近著に「米中冷戦 中国必敗の結末」(2019)。
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