この記事の初出は2024年9月10日
イーロン・マスクは反トランスジェンダー
イーロン・マスクは、以前から、トランスジェンダーが自分が希望する代名詞を使えるという権利を侮蔑し、それを認めるような政策は「社会問題に対する意識が高い“ウォーク”な政策の一つで、社会にとって危険だ」と主張してきた。 “ウォーク”(Woke)とは「Wake」(目を覚ます)に由来する言葉。「社会で起きている問題に対して目を覚ませ」という意味で使われおり、政治的には民主党系リベラルの運動である。 したがって、イーロン・マスクは、“アンチ・ウォーク”(Anti-Woke)だ。アンチ・ウォークは、ウォークによってマイノリティが過度に優遇されて、マジョリティの権利や価値観が蔑ろにされていると考えている。 つまり、トランジェンダーの権利を容認し過ぎると、一般の人(この表現はよくないとされるので、「生まれ持った性別が一致している人=シスジェンダー:Cisgender」とする)が不利を被る。“ウォーク”は行き過ぎだと主張するのだ。 これは、保守的な人々にとっては、極めて当然の主張と言える。 マスクが、トランスジェンダー問題にこだわるのは、じつは自分の息子がトランスジェンダーで、自身と絶縁状態になったことが大きく影響している。マスクの息子(現在の名前は女性名でビビアン・ジェンナ・ウィルソン、20歳)は、2022年、カリフォルニア州の裁判所に名前と性別の変更を申請し、父親と一切の関係を断つことを表明している。
父親の言っていることは「全部フェイク」と娘
7月24日、マスクの娘ビビアンは、父親のマスクが自分について語ったことに対してSNSで反撃に出た。24日には動画で「(自分は)元気でうまくいっている」と語り、25日には「カリフォルニア州では(自分は)法的に女性と認められている。自分より下の人間の意見など気にかけない」「(父親の言ったことは)全部ウソだ」と投稿し、「touch some(f*****g)grass」(外へ出て現実を見ろという意味)と結んだ。 ビビアンがこう反撃したのは、マスクが22日に右派のポッドキャスト番組に出演し、娘の性別変更は「だまされて」書類に署名させられたとものだとし、このことによって「私の子どもは意識高い系ウイルスによって殺された」と語ったからだ。 この後、マスクはXに投稿し、ビビアンは「女の子ではない」「生まれながらのゲイでやや自閉症的だった」「(子どものころは)私のためにジャケットなど着る服を選んでくれて、fabulous(素敵)!と言ってくれた」と語った。 ビビアンの反撃は、この点についても触れていた。彼女は「(父親の投稿は)全部フェイクだ」「同性愛者に対する事実無根の偏見」とし、「私は父の着るジャケットを選んだこともないし、fabulousなんて絶対に言わなかった。私は4歳のときに、fabulousなんて言葉は使わなかった」「(父は)私がどんな子どもだったかなんて知らない。単純にそこにいなかったから。そして彼がいたわずかな時間、私は自分の女性性や性的マイノリティ性をめぐって執拗な嫌がらせを受けた」と綴った。
「IVF」により現在12人の子どもの父親
ここで触れておきたいのは、イーロン・マスクには12人の子どもがいること(=12人の子どもの生物学上の父親)だ。 その経緯をまとめると、次のようになる。 イーロン・マスクは、カナダの名門クイーンズ大学在学中に、最初の妻となるジャスティン・ウィルソンと出会って2000年に結婚。すぐに子どもを授かり、ネバダと名付けた。しかし、その子は生後10週で乳幼児突然死症候群により亡くなった。 失意のなか、マスク夫妻は2004年に、「IVF」(In Vitro Fertilization:体外受精)で子どもをつくり、グリフィン&ザビエルという双子を授かった。このザビエルが、トランスジェンダーとして女性になったビビアンである。 その後、2006年、マスク夫妻は再び「IVF」により、今度はカイ、サクソン、ダミアンという三つ子を授かったが、2008年に離婚している。 マスクの7人目の子どもは、2020年に生まれた息子エックス。母親は恋人のカナダ出身のシンガーのグライムスで、やはり「IVF」によってできた子どもだ。この後、2人は破局と復縁を繰り返し、2人目、3人目の子どもをつくった。 そして、今年の6月、マスクは、現在のパートナーであり、自身の会社「ニューラリンク」のディレクターであるシヴォン・ジリスとの間に3人目の子どもがいることをメディアの取材で公表した。2人の間には、2021年11月に双子のストライダーとアズールが生まれている。 以上をまとめると、イーロン・マスクは12人の子ども(1人は死亡)の父親ということなる。 ただし、彼の子どもはほとんどが「IVF」により生まれており、彼はパートナーと合意の上で意図的に子どもをつくってきたことになる。マスクはその理由について、「出生率の崩壊は文明が直面する最大の危機」だと、Xに投稿している。 (つづく)

この続きは10月8日(火)発行の本紙(メルマガ・アプリ・ウェブサイト)に掲載します。
※本コラムは山田順の同名メールマガジンから本人の了承を得て転載しています。
山田順
ジャーナリスト・作家
1952年、神奈川県横浜市生まれ。
立教大学文学部卒業後、1976年光文社入社。「女性自身」編集部、「カッパブックス」編集部を経て、2002年「光文社ペーパーバックス」を創刊し編集長を務める。2010年からフリーランス。現在、作家、ジャーナリストとして取材・執筆活動をしながら、紙書籍と電子書籍の双方をプロデュース中。主な著書に「TBSザ・検証」(1996)、「出版大崩壊」(2011)、「資産フライト」(2011)、「中国の夢は100年たっても実現しない」(2014)、「円安亡国」(2015)など。近著に「米中冷戦 中国必敗の結末」(2019)。
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