2025年4月25日 COLUMN 津山恵子のニューヨーク・リポート

津山恵子のニューヨーク・リポートVol.54 人気トップのリッジウッドに住むなつかしい景観、人々の絆 

ニューヨーク市で最も「クールで住みたい地区」であるクイーンズ・リッジウッドに住んで10年になる。なぜリッジウッドが人気なのか、その魅力を伝えたい。

2色のレンガの美しい街並み。(クイーンズ・リッジウッド)

まず、マンハッタンやブルックリンよりもアパートの賃貸料がやや安い。L、M線が近く、移動も便利だ。このため、ミレニアル、Z世代が多く、ありとあらゆる移民が住んでいて活気がある。他所にはないコミュニティ愛と絆が強い。

私のご近所ではよくポットラックのディナーをする。最近は、お隣さんがローストチキンを作り、私は前菜に餃子を、他の友人がカプレーゼ、チーズの盛り合わせ、プリンを持ち寄った。ローストチキンは、いろんなハーブの味が沁みてソースなしで最高。レストランに行くよりも安上がりで、周囲を気にせず話ができる。風邪で寝込んだりすると、食事を持ち寄ってくれる。引越しの手伝い、家電の修理、出張中のペットや植物の世話など全部ご近所さんがやってくれる。

街並みが美しく、高層ビルがないのも落ち着く。通りを囲む建物はみな、黄色とオレンジのレンガで、1910〜20年代に作られた3階建。隣のブルックリン・ブッシュウィックのアパート群の延長で、ブルックリンの一部だと思っている人も多い。

1910年代からの景観を保っているため、映画やドラマのロケが1年中行われている。私が住むアパートの屋上もNetflixのドラマシリーズのロケに使われ、美しい庭園となった。アパートの裏の通りは、M線の古い高架線があり、その下が「ウェスト・サイド・ストーリー」(2021年、スティーブン・スピルバーグ監督)の2シーンに使われた。通りに1950年代のクラシックカーがずらりと並び、100人以上のスタッフが動き回る姿を見るのは毎日ワクワクした。「アイリッシュマン」(2019年、マーティン・スコセッシ監督)の前半もご近所で撮影された。 

ミレニアルやZ世代を狙ったオシャレなカフェやレストラン、書店なども集まっている。すべてがスモールビジネスであるため、工夫があってインスパイアリングだ。書店カフェのToposにはWiFiがなく、本や新聞を読んだり、友人と集うことにフォーカスしている。新型コロナウイルスのパンデミック時に2店目を開いた人気スポットだ。カフェやレストランも手作りでこだわりのメニューを揃えていて楽しい。

2店舗あるベーカリー、Bakeriは、オープンキッチンでパンづくりが見られる
(クイーンズ・リッジウッド)

もちろん、ジェントリフィケーションへの恐れはある。ブルックリンとの境にいきなり高層ビルが立った。量販店のバーリントンが入る予定で、スモールビジネスしかないリッジウッドには脅威だ。高層ビルがなかった景観もブルックリン側は台無しになった。

つまり、リッジウッドの魅力は、古い景観や人々の絆といったどこか懐かしいもの。今の時代に失われつつあるだけにクールなエリアとは、ほろ苦い。(写真と文 津山恵子)

津山恵子 プロフィール
ジャーナリスト。専修大文学部「ウェブジャーナリズム論」講師。ザッカーバーグ・フェイスブックCEOやマララさんに単独インタビューし、アエラなどに執筆。共編著に「現代アメリカ政治とメディア」。長崎市平和特派員。元共同通信社記者。

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