グランドセントラル駅に新たに登場した、タロットカードから生まれた幻想的なモザイク壁画をご存じだろうか?

◆ 「タロットカード」に込められた意
マンハッタンの中心、グランドセントラル駅の地下鉄構内に突如現れた、息をのむような新作のガラスモザイク壁画「Abstract Futures(抽象的な未来)」という作品。
もともとこの「Abstract Futures」は、タロットカード・プロジェクトとしてスタートしたもの。
この作品を手がけたのは、アーティスト・デュオ「ヒルマズ・ゴースト(Hilma’s Ghost)」こと、シャルミスタ・レイとダニエル・テゲダー。スウェーデンの抽象画家ヒルマ・アフ・クリントからインスピレーションを得て制作されたこの壁画は、都市を生きる人の「通過点」と「旅」がテーマだ。

壁画は3つの構成から成っており、最初は「愚者(The Fool)」というキャラクターが、「もっと大きな何か」を求めてニューヨークに足を踏み入れる様子が描かれている。情熱を象徴する赤やオレンジ、ピンクの色彩が画面を彩り、上に向かってすぼまっていくロートのような形が、エネルギーが下から上へと突き抜けていくイメージを表している。それはまるで、希望や衝動が、心の奥から一気にあふれ出して空に向かって飛び立っていくような情景だ。

次に、「愚者」は緑、オークル、ブラウンといった色彩の中で変化と対峙し、バランスと精神の再生を経験する。中央のモチーフである「運命の輪(Wheel of Fortune)」は、ニューヨークという街で「一日にして運命が変わる」ことを象徴している。

最終パートでは、「愚者」が自己理解を深め、月と星、宇宙的な夜明けによって「霊的・宇宙的な次元」へと至る。再び赤とオレンジの色彩が登場し、旅の終わりと新たな始まりを示唆する。
◆ なぜ、グランドセントラルに?
同駅は、通勤、旅行、新生活などあらゆる「旅の始まり」が交差する場所だといえる。一方、タロットの「愚者(The Fool)」は、人生の旅を始めるカード。無垢な主人公が、自分の内面や運命をたどる冒険を象徴している。
つまり、グランドセントラル駅=物理的な旅の出発点、タロットの愚者=精神的な旅の出発点。その重なりを表現している.
制作者は「この壁画は、都市を新しい視点で捉える旅の記録。物理的な移動と精神的な成長が交差する空間だ」と語る。多様な人種・文化が交わるニューヨークならではの「つながり」を表現しており、その多層的な世界観はまさにこの街の縮図と言えるだろう。
スピリチュアルとアートが融合した作品が公共交通の空間に溶け込むのは、まさにニューヨークらしい文化のかたち。忙しい日常の中、ふと立ち止まって自分自身の“旅”を見つめ直すきっかけになるかもしれない。
取材・文・写真/藤原ミナ
作品詳細
作品名
Abstract Futures
アーティスト
Hilma’s Ghost(Sharmistha Ray & Dannielle Tegeder)
展示場所
42nd Street-Grand Central (7番線・42丁目/3番街の入り口付近)
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