2025年5月1日 COLUMN 教えて、榊原先生!日米生活で気になる経済を専門家に質問

第16回 教えて、榊原先生!日米生活で気になる経済を専門家に質問「ずばり、アメリカ経済はこれからどうなるの!?」

Q. 新政権になってから目まぐるしいほどのニュースが入ってきます。ずばり、アメリカ経済はこれからどうなるのでしょう!?

A.金融市場が大荒れです。「Reciprocal」という言葉には、「互恵的な」というニュアンスも含まれているとされていますが、トランプ大統領による Reciprocal Tariffsにはとてもそのような意味合いはありません。これまで各国の協力によって困難な交渉を乗り越え築き上げられ、世界の人々が享受してきた経済成長のメリットをもたらす自由貿易のシステムを破壊しているように見えます。

トランプ大統領の言う「相互関税」というのは、各国の既存関税と同じものを導入して相互にフェアにするというものではなく、現状の二国間の貿易収支(米国にとっての赤字)を是正する意図に基づいた恣意的な計算式で追加的な税率を決めるということのようです。しかし、これまで実績やその経済学の研究に基づけば、関税によって貿易品目のバランスが変わったり、一時的な収支改善は見られたりしても、基調的に是正されるものではないとの理解になっています。従って、この相互関税政策が意図した結果をもたらすことに対してあまり楽観的になれないでしょう。

いや、トランプ大統領の意図は米国にとっての有意義な譲歩を相手国から引き出すための戦略に過ぎないという意見はあるかと思われます。今のところは、各国が報復措置の導入へ動いている様子も見受けられるので、その戦略がうまく成功するかも分かりません。著名な識者や少なからぬ調査機関が、仮にトランプ大統領が意図するMAGAをやがて実現できる方向へ展開していくとしても、米国経済の景気後退期入りは避けられないだろうという見通しを示しているようです。

前回の記事で、トランプ大統領の関税政策に関する発言に対して米ドルが上昇して反応しているため、関税の引き上げによる米国内での物価上昇圧力がある程度は相殺される可能性もあると触れました。しかし、関税の引き上げがとても広範囲で規模も大きいため、上記のように市場参加者が米国の景気悪化を想定してドル安の動きに転じています。そうすると、よりストレートに物価上昇という結果をもたらす公算が大きくなるでしょう。

さて、このような状況で、ここからの先行きをどのように考えておいたら良いでしょう。筆者は政治分析に関して専門家ではなく、特に各国のさまざまな思惑が絡む交渉の行方は想像できません。ですが、経済的な影響という視点から、来年の中間選挙に向けた米国民の考え方が非常に大きな要素になるだろうと感じます。

この記事がアップされる頃までには金融市場が落ち着いていて欲しいものですが、分かりません。関税の報復合戦になっていたら非常に不味いですね。見通しは難しいというのが正直なところですけど、金融市場が本当に落ち着くには大きく2つの展開が考えられるのではないでしょうか。

1つは、意外にトランプ大統領の意図するMAGAの実現が交渉を通じて首尾よく行くという見通しを投資家が持ち始める場合。つまり、足元の金融市場の反応は行き過ぎで、世界経済がスパイラル的に悪化方向へどんどん向かうという不安は誤りなのだと気付く流れです。

ただ先にも触れたように、相互関税の設定に使われている計算式が意図する貿易収支の是正を目的としているのであれば結果が出ない懸念は残ります。そうではなく、何か特定の譲歩を各国から引き出して満足するということであれば、歯止めがかかる可能性はありそうです。

もう1つは、人々の保有資産が価値を大きく棄損する金融市場の動きや顕著な物価高と景気後退見通しの高まりといった状況を受け、トランプ大統領への支持が見直され始めるような場合。今の戦略ではMAGAを実現できないと多くの米国民が疑うようになれば、トランプ大統領もさすがに戦略を修正・変更せざるを得なくなるのではないでしょうか。

各国為政者によるトランプ関税への対応は不透明なのでさておき、いま企業は非常に悩ましい選択を迫られています。関税の悪影響を回避するために事業方針や投資行動を変更していくか否かです。それは、つまり次の大統領によって政策路線はある程度戻ると想定し4年間我慢して耐えるべきなのか、米国はトランプ大統領の選出と共に根本的に変わったのであって4年後以降も今の路線が続くことになるかの判断です。この選択を前にして行動を起こしにくくなっているはずで、それは世界経済の足を引っ張りそうです。

その選択の結論を導くにあたってカギとなるのは中間選挙へ向けた米国民の態度でしょう。今の戦略で良いとトランプ大統領への支持を続けるのか、支持率の低下という動きを見せて政策の再考を促すのか。世界経済の行方を左右するとも言える重大なシグナルが、米国民から来年秋の選挙見通しを通じて発信されることになると思います。

先生/榊原可人(さかきばら よしと)プロフィール

SInvestment Excellence Japan LLC のマネージング・パートナー。主にファンド商品の投資仲介業務に従事。近畿大学非常勤講師(「国際経済」と「ビジネスモデル」を講義)。以前は、米系大手投資銀行でエコノミストを務めた後、JPモルガン・アセット・マネジメントで日本株やマルチアセット運用業務などに携わる。

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