第二回:米焼酎「山翡翠(やませみ)」とイタリアの「タレッジョ」
今回から3年目に入りました焼酎ソムリエ大竹彩子によるこちらのコラム。今年度はチーズと焼酎とのペアリングをテーマに、ニューヨークで飲める焼酎の中から毎回一銘柄をピックアップし、それに合うチーズを紹介していきます。月曜の夜からチーズをつまみに焼酎を一献いかがでしょうか?
近年、焼酎出荷量日本一を誇る宮崎県。とある山中にひっそりと佇む尾鈴山蒸留所は、銘蔵黒木本店の別蔵として1998年に誕生しました。そこで造られる芋焼酎は「山ねこ」、麦焼酎は「山猿」、そして今回紹介する米焼酎「山翡翠」です。それぞれの名前からも分かるようにコンセプトが感じられ、スタイリッシュで、地元の版画家・黒木郁朝氏によるラベルのデザインも親しみやすく、これまでの焼酎のイメージを変えるような新しいタイプの蔵です。しかし、その造り方は伝統を守り、手間の掛かる麹造りも機械化せず、手作業にこだわっています。
山翡翠は宮崎県産酒造好適米「はなかぐら」を原料に、水は仕込みから割り水まで蒸留所のある尾鈴山の湧水を使用。蒸留後は焼酎としては長い約3年、じっくりと甕貯蔵で熟成され、出荷されます。高度に精白した米を使用した上質な吟醸酒にしか現れないといわれる吟醸香を焼酎で味わうことのできる、まさに逸品。“通”を唸らせる「大人の米焼酎」という印象を受けます。原料の米の芳醇さからくる心地良いほのかなフルーティーさに熟成ならではのどっしりとした重厚感があり、最後は爽やかに喉を通っていきます。
この焼酎に合うチーズが北イタリアのポー川流域にあるロンバルティア地方で生産されている「タレッジョ」です。今では平野部の工場で作られているものが主ですが、原産地であるタレッジョ渓谷からこの名が付きました。原料は牛の全乳で、チーズ表面を塩水で洗い流しながら40〜60日ほど熟成させるウォッシュタイプです。このタイプではフランスを代表する匂いやクセの強いエポワスなどがありますが、イタリアのものは味も匂いもマイルドな仕上がりが特徴。その中でもタレッジョは初心者にも挑戦しやすいチーズです。舌触りはもっちりとして柔らかく滑らか、また、溶けやすいのでリゾットなどの料理にも向いています。ほど良い酸味も感じられ、その滑らかな濃厚さと酸味のバランスが山翡翠にぴったりと合わさってきます。チーズ上級者は外側のオレンジ色の皮の部分も一緒に山翡翠を堪能してみるのはいかがでしょうか。塩気を含み、また新しい味わいが口いっぱいに広がります。
一口メモ
タレッジョは、イタリアチーズには珍しい約20cm四方の平たい正方形の形をしています。それは原産地であるタレッジョ渓谷が険しい地形であったため運搬時に効率よく積載する必要があり、正方形に整形されたのではないかといわれています。

大竹彩子
東京都出身。2006年、米国留学のため1年間ミネソタ州に滞在。07年にニューヨークに移り、焼酎バー八ちゃんに勤務。13年10月に自身の店「焼酎&タパス 彩」をオープン。焼酎利酒師の資格をもつ。
焼酎&タパス 彩
247 E 50th St (bet 2nd & 3rd Ave)
212-715-0770 www.aya-nyc.com
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