2025年5月23日 COLUMN 山田順の「週刊 未来地図」

トランプは中国を舐めている! 多極化か中国の覇権奪取か?来るべき世界とは?(下)

アメリカ単独では中国を退けられない

 トランプは本能的に中国の挑戦を封じ込めよう、叩き潰そうとしている。そして、それが関税によって簡単にできると踏んでいる。つまり、彼には過去の中国観しかなく、かつての日本と同じく「モノマネものづくり国家」としか見ていない。
 そうでなければ、同盟国にまで法外な関税を課すなどという“ 愚挙”をするはずがない。要するに中国を舐めていて、アメリカ単独でも中国の挑戦を退けられると思っているのだ。
 この考えが強まったと思えるのが、最近の中国の経済失速である。コロナ禍を脱した後も低迷は続き、不動産バブルは崩壊、GDP成長率は下降中である。
 さらに、少子高齢化が進み、そんななかで若者たちの失業率は過去最高を記録している。
 こうなると、「もはや中国にアメリカを追い抜く力はない」と思い込むのは、当然かもしれない。しかし、それは大きな間違いである。いまの中国は、欧州諸国や日本、そしてオーストラリアなどの自由と人権、民主主義を共通の価値観とする同盟国の力を借りなければ、封じ込めないのだ。

「中国の夢は実現しない」は間違いだった

 いまから10年ほど前、私は『「中国の夢」は100年経っても実現しない』(PHP)という本を書いた。
 習近平が就任以来、唱えている「中国の夢」とは、2049年、つまり中華人民共和国の建国100年までに、「中華民族の偉大なる復興」を成し遂げようというもの。それが、実現しないだろうというが、この本の主旨である。
 自由がない、人権がない、環境汚染はひどい、賄賂が横行するなどという国は、いくら経済発展しようと、国際社会で信用され、人類の未来に貢献できるわけがないと断じたのだ。
 当時の中国は、たしかに大発展していた。私は、その状況を各地で見た。北京、上海、蘇州、南京、青島、済南—–どこに行っても、建設、建設、開発、開発のラッシュだった。
 しかし、それで潤った人々は、政府を信用せず、信用しているのはカネとコネと身内だけ。その結果、カネをつかんだ者からあっさり国を捨て、出て行ってしまう。
 これでは、「偉大なる復興」などあり得ないと思ったのだ。
しかし、いまは見間違った。考えは、間違っていたと恥じている。

中国経済はすでにアメリカを凌駕している

 10年前の私の目が曇っていたように、トランプの目は曇っている。
 かつてGDPの米中逆転が盛んに言われたが、まだ実現してはいない。しかし、世界銀行の購買力平価(PPP)で見たGDP推計によると、中国経済は約10年前にアメリカを逆転し、現在はアメリカを約25%も上回っている。
 トランプが気にしている製造業を見れば、中国の製造業はいまや世界の製造業の約30%を占めており、約15%のアメリカの倍である。
 製造業の礎となる特許出願数と引用数の多い学術論文でアメリカを超えてトップに立ち、世界の化学品生産の約50%、船舶数の約50%、EVの約70%、蓄電池の約80%、民生用ドローンの約80%、太陽光パネルと精製レアアースの約90%を中国が握っている。
 また、産業用ロボットの設置台数は世界の半分を占めてアメリカの7倍、第4世代原子力技術の商業化でも先行している。造船業は世界一で、アメリカのなんと200倍の造船能力を持っている。セメント生産では20倍、鉄鋼生産では13倍である。

この続きは5月27日(火)発行の本紙(メルマガ・アプリ・ウェブサイト)に掲載します。 
※本コラムは山田順の同名メールマガジンから本人の了承を得て転載しています。

山田順
ジャーナリスト・作家
1952年、神奈川県横浜市生まれ。
立教大学文学部卒業後、1976年光文社入社。「女性自身」編集部、「カッパブックス」編集部を経て、2002年「光文社ペーパーバックス」を創刊し編集長を務める。2010年からフリーランス。現在、作家、ジャーナリストとして取材・執筆活動をしながら、紙書籍と電子書籍の双方をプロデュース中。主な著書に「TBSザ・検証」(1996)、「出版大崩壊」(2011)、「資産フライト」(2011)、「中国の夢は100年たっても実現しない」(2014)、「円安亡国」(2015)など。近著に「米中冷戦 中国必敗の結末」(2019)。

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