こうしてニューヨークで「日本酒」が広まってゆく 日本酒文化を伝え、学び続ける “サケ・サムライ”

ニューヨークで日本酒文化の普及活動に尽力するティモシー・サリバンさん(Timothy Sullivan)
「20年前、日本酒は “知られざる文化” だった。飲める場所も限られていて、まるで秘密クラブのようだった」と語るのはティモシー・サリバンさん(Timothy Sullivan)。”サケ・サムライ” としてニューヨークで日本酒を普及させた1人だ。

今では、ニューヨークを中心に日本酒イベントが次々と開催され、どれもチケットは完売。「少し前なら日本酒を飲んだことがない人も多かった。でも今では、ほとんどの人が一度は口にしている。これが文化になってきた証拠だと思います」
今回は、日本酒を伝え、そして学び続ける人として、ニューヨークで日本酒の魅力を発信し続けるティモシーさんに話を聞いた。
◆「たまたま飲んだ日本酒で人生が変わった」
2005年のある日、たまたまマンハッタンの寿司屋で飲んだ日本酒に心を打たれ、「人生が変わった」と話すティモシーさん。「その日、寿司と一緒に一番高い日本酒を注文してみたのです。それが八海山の純米吟醸、1杯16ドルでした。味は本当に美味しかったけれど、当時はお酒に詳しくなかったので、その場ではあまり気に留めていませんでした。でも、後になってもずっとあの味が忘れられなくて・・・調べてみたんです」
そこからどんどんと日本酒にのめり込んでいったというティモシーさんは、日本酒バーを探し歩き、そこで得た知識や学びを自身のブログ「Urban Sake」につづっていった。当時は今のニューヨークのように、日本酒が飲める場所がすぐに見つかるわけではなく、「まるで秘密クラブのようだった」と振り返り、「すべて日本語で書かれたラベルを読み解くのはそう簡単ではなかったですよ」と笑みを浮かべる。

そんな日本酒との衝撃の出会いからたった2年後、2007年には日本酒業界の名誉称号「サケ・サムライ」を受章し、その後は全米最大の書店チェーン「Barnes & Noble」のウェブ制作部門でディレクターとして活躍していた華々しいキャリアを離れ、日本酒の世界へと大きな舵を切った。「普段からお酒を飲まなかった私が、すっかり日本酒に人生を変えられてしまいました」
◆ 「アメリカ生まれの日本酒」に追い風
現在はニューヨーク・ブルックリンにある酒蔵「Brooklyn Kura」と、そこに併設された「Sake Studies Center」で、ブランディングと一般人に向けた日本酒教育に携わっている。ニューヨークで初めての酒蔵として2018年にオープンした「Brooklyn Kura」は、なんと今年に入ってから同酒蔵で醸造された商品が日本でも買えるようになったのだ。

「東京の酒屋でBrooklyn Kuraのボトルを見つけたときは、本当に驚きました。これは歴史的な一歩。日本酒が日本だけのものではなく、世界のお酒になるという兆しです」海外で生まれ育った日本の文化が、逆輸入で日本に入ってゆく。このムーブメントはまだ新しいが、今後確実に強まっていく動きだとティモシーさんは語る。

日本に古くからある従来の日本酒ブランドと異なり、アメリカの酒蔵のほとんどはここ数十年で誕生した、比較的新しいものばかり。その点についてティモシーさんは、「固定観念がない分、自由に挑戦できる」と分析しており、アメリカの酒造家に共通している部分は「自分たちの酒文化をゼロから築いているところ」だという。歴史的な縛りがないため、フルーティーな酒や新しい酵母、地元産米などを積極的に取り入れた、既成概念にとらわれない面白みがあるという。

そんなアメリカ産の日本酒に注目するティモシーさんは、7月26日には自身が教育ディレクターとして活躍する「Sake Studies Center」で、アメリカ生まれの日本酒のみを紹介するテイスティングイベント「American Craft Sake Class」を開催予定。「Brooklyn Kura」のほかに、日本人オーナーがニューヨーク・ブルックリンで立ち上げた「Kato Sake Works」、アーカンソー州ホットスプリングスに拠点を置く「Origami Sake」など、西〜東海岸の5つの酒蔵が紹介され、「さまざまな角度から日本酒文化についての学びを深める良い機会になれば」と期待を込める。
◆ 日本酒は、まるで日本文化そのもの
「今の私の使命は、初心者を怖がらせないことです。少しでも自信を持ってもらえれば、世界が広がりるのを身をもって体験したので、それを伝えていきたい。日本酒を学ぶのは、まるで日本文化そのものを学ぶようなもの。終わりがないからこそ、学び続けたいし、私も永遠の生徒でいたいと思うのです」


ティモシーさんは、日本酒カルチャーのことを「Japanese Culture in a Cup(コップに入った日本文化)」と表現する。「私の夢は、日本酒を選ばれるお酒にすること。ビールやワインじゃなくて、『今日は日本酒にしよう!』と言える世界を作りたい。文化としても、味としても、そして人の心を動かす力としても、日本酒にはその可能性があると信じています」
取材・文・一部/ナガタミユ
写真/ティモシー・サリバンさん提供
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