前回の配信記事に続いて、トランプの「ペテン政治」の実態を見ていく。岩盤支持層であるラストベルトの白人貧困層(poor white)を救うなどというのはただの出まかせで、本当は、自分を含めた富裕層をますます富ませることしか、彼のアタマにはない。
要するに、アメリカを富裕層に優しい「タックスヘイブン」にしてしまおうというのだ。そうして、「大統領ビジネス」によって私腹を肥やす。彼は、自己愛性人格障害とされるだけあって、自身を「王」とはき違え、なにをやっても構わないと思っている。
ノーベル賞学者が指摘する「タックスヘイブン化」
ノーベル賞受賞の経済学者ジョセフ・スティグリッツが、最近のインタビュー(『クーリエ・ジャポン』6.11配信記事)で、トランプ政権下で「アメリカはいま史上最大のタックスヘイブンに変貌している」と述べていることに、素朴に「なぜ?」と思った。
しかし、よくよく考えてみると、この指摘は当たっている。
前回の配信記事で述べたように、トランプは貧しい人々のことなどどうでもいいと思っている。それが、「トランプ関税」であり、「大型減税法案」である。しかも、トランプは大統領という地位を利用し、ファミリー企業を通して金儲けに邁進している。
そして、これらを可能にするために、バックグランドを整えているのだ。それが、スティグリッツが指摘する「アメリカのタックスヘイブン化」である。
スティグリッツは次のように述べている。
「米政権は、国連の国際租税協力枠組条約の交渉から離脱し、海外腐敗行為防止法も執行しようとしない。さらには暗号資産の大規模な規制緩和までおこなおうとしている。 これらの措置は、過去250年にわたって米国の制度内に組み込まれてきた安全装置の破壊を狙う戦略の一環なのだろう。」
「国際租税協力枠組条約」の目的はなにか?
スティグリッツが指摘した「国際租税協力枠組条約」とはなにか? そして、そこから離脱するとどうなるのか?
「国際租税協力枠組条約」(United Nations Framework Convention on International Tax Cooperation)というのは、各国がバラバラに行っている国際課税を透明化、統一化し、マネーロンダリング、タックスヘイブンによる租税逃れなどを防ぐ枠組み(ルール)をつくろうというもの。
もっと具体的に言うと、一つはタックスヘイブンなどにある匿名口座の情報開示、情報交換により、テロ資金などのマネーロンダリング、富裕層の課税逃れを防止しようというもの。もう一つは、とくにアメリカの多国籍ビッグテックである、グーグル、アップルなどの国境を越えたデジタルサービスに対してどう課税するかを取り決めようというもの。
こうしたことが決まれば、アメリカの富裕層にとっては、大きなダメージとなる。なぜなら、富裕層の多くはデジタルで富を築いたニューマネーであり、旧来のオールドマネーも含めて、富裕層のマネーの多くはアメリカ国内およびタックヘイブンにあるからだ。
国連でアメリカ代表は拒否して席を立つ
国際課税は、世界各国にとって、ここ10年以上にわたって論議を重ねてきた大きなテーマである。各国は長きにわたって交渉を続け、2021年におよそ140の国と地域で大枠の合意に達した。
しかし、トランプは就任するやいなや、OECDが進めてきた「デジタルサービス税(DST)の導入」や「法人税の最低税率15%とする」などの大筋合意から離脱した。
トランプは、「国際課税ルールはアメリカ国内では効力を持たない」と表明した。
そして、今年の2月に国連における「国際租税協力枠組条約」の交渉会合では、「これ以上参加するつもりはない。アメリカはこの枠組条約のプロセスの結果を拒否し、反対することを明確に強調する」と、国連代表が席を立った。
この続きは7月31日(木)発行の本紙(メルマガ・アプリ・ウェブサイト)に掲載します。
※本コラムは山田順の同名メールマガジンから本人の了承を得て転載しています。

山田順
ジャーナリスト・作家
1952年、神奈川県横浜市生まれ。
立教大学文学部卒業後、1976年光文社入社。「女性自身」編集部、「カッパブックス」編集部を経て、2002年「光文社ペーパーバックス」を創刊し編集長を務める。2010年からフリーランス。現在、作家、ジャーナリストとして取材・執筆活動をしながら、紙書籍と電子書籍の双方をプロデュース中。主な著書に「TBSザ・検証」(1996)、「出版大崩壊」(2011)、「資産フライト」(2011)、「中国の夢は100年たっても実現しない」(2014)、「円安亡国」(2015)など。近著に「米中冷戦 中国必敗の結末」(2019)。
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