2025年8月12日 COLUMN 山田順の「週刊 未来地図」

山田順の「週刊:未来地図」 参議院選の各党の政策は目先だけの一時しのぎ。これではインフレは止まらず、日本はとことん衰退する! (上)

今回は、参議院選挙の渦中なので、各政党が掲げた政策が、いかに絵空事で、目先だけの一時しのぎ、単なる選挙対策にすぎないかを嘆述することにした。
野党の「消費減税」vs.与党の「給付金」という図式になっているが、どちらも財源、実現へのプロセス、効果が不明。「物価対策」にもなっていない。
もはや、この国の政治は終わっている。このままでは、とことん衰退していくだけだ。まともに暮らしたいなら、この国を出ていくほかないだろう。私が、20代の若者だったら、なんとしてもそうするだろう。
*今回は、この記事とほぼ同内容の記事を「Yahoo!ニュース」に寄稿しています。

「現金給付」も「消費減税」も財源が同じバラマキ

 現在、日本の国民負担率は46.2%(2025年度見込み)で、江戸時代さながらの「五公五民」である。これに、国の借金(財政赤字)を加えると(=潜在的国民負担率)、「五公五民」どころの話ではなくなる。
 もはや、完全な重税国家。これ以上の国民負担は、国民生活を破壊する。
 しかも、現状は、物価上昇に給料が追いつかない「スタグフレーション」が進行中。実質賃金は毎月、毎月でマイナスを記録している。
 厚生労働省が7月7日に発表した5月の毎月勤労統計調査(速報、従業員5人以上)は、前年同月比で2.9%のマイナスである。
 5月の生鮮食品を除いた消費者物価指数(コアCPI)が前年同月比で3.7%も上昇しているのだから、こうなるのは当然。この3%を超える物価上昇は、ここ半年ずっと続いている。
 そのため、全政党が「物価対策」を公約の第一に掲げ、「与党:現金給付」vs.「野党:消費減税」という構図になったわけだが、なんのことは、すでに取った税金を配るか、はじめから取らないかの違いだけだ。つまり、どちらも財源は同じである。もっと言うと、「バラマキ」である。

各党が掲げる「物価対策」は似たり寄ったり

 では以下に、ざっと各党が掲げている「物価対策」を見てみたい。
[自民党]
 子どもや住民税非課税世帯の大人に1人4万円、そのほかは1人2万円を給付。財源には主に税収の上振れ分を回す。マイナンバーにひもづく公金受取口座をフル活用し、スピード感のある給付に取り組む。
[公明党]
 税収の上振れなどを活用し、「生活応援給付」として国民に1人2万円を一律給付。18歳以下の子どもと住民税非課税世帯の大人は1人4万円を給付。
[立憲民主党]
 食料品の消費税率を2026年4月から原則1年間ゼロに。「食卓おうえん給付金」として1人あたり2万円を給付。ガソリンの旧暫定税率を廃止する。
[日本維新の会]
 食料品にかかる消費税を2年間ゼロに。現役世代対象の勤労所得税額控除を導入。低所得層に支援が行き渡るよう給付付き税額控除を実施。財源は、税収の上振れ分で対応可能とする。
[共産党]
 消費税の廃止を目指し、まず5%に減税。財源は、国債に頼らず、大企業の法人税、富裕層の所得税や住民税、相続税などへ課税強化によって対応。
[国民民主党]
 賃金上昇率が物価+2%の水準に安定して達するまで、消費税を一律5%に引き下げる。所得税・住民税の非課税枠「年収の壁」を年178万円に引き上げる。税収の上振れ分と赤字国債を財源にし、特別会計の剰余金なども使う。
[れいわ新選組]
 消費税を廃止し、現金10万円を一律給付。季節ごとのインフレ対策給付金を出す。財源は、法人税を引き上げ、所得税の累進性の強化、赤字国債の発行。
[参政党]
 消費税を段階的に廃止し、社会保険料の負担を軽減する。国民負担率は上限35%にする。国債を増発で対応。
[社民党]
 食料品の消費税率ゼロを即時に実現。財源は防衛費の引き下げや、法人税・所得税の累進性の強化。国債で対応。
[日本保守党]
 食料品の消費税率を恒久的に0%にする。所得税も減税する。とくに財源は示さず。

2万円の現金給付に必要なのは約3.5兆円

 給付金配布、減税となると、必要なのが、その財源。財源をどうするかは避けて通れない。しかし、各党とも財源をどうするかは、まったくのあいまいだ。
 税収の上振れ分が真っ先に上がっているが、そんなものは一時的であり、また、どれほどになるかもわからない。
 そこで、財源としてどれくらい必要かを、財務省などの試算で見ると、次のようになる。
 まず、国民1人当たり2万円の現金給付だが、必要な予算規模は約3.5兆円とされる。自民党はこれに税収の上振れ分を充てるとしているが、財務省が7月2日に発表した2024年度の国の一般会計の決算概要での税収の上振れ額は1兆7970億円。つまり、これでは足りないことになる。
 次に、消費減税に必要な額を見ると、食料品の消費税をゼロにした場合は年間約4兆8000億円。 もし、消費税を一律5%に下げると年間約11兆~12兆円。廃止した場合は、少なくとも22兆円以上が必要になるとされる。
 ちなみに、現在の日本の教育予算は5兆3000億円、防衛予算は7兆7000億円である。消費税を一律5%に下げたとすると、これらに回す財源がほぼなくなることになる。
 なお、消費税収は年間26兆8000億円で、その約9割は社会保障費に充てられている。つまり、消費減税をした場合、社会保障費をどうまかなうかがもっとも大きな問題となる。

この続きは8月14日(木)発行の本紙(ウェブサイト)に掲載します。 
※本コラムは山田順の同名メールマガジンから本人の了承を得て転載しています。

山田順
ジャーナリスト・作家
1952年、神奈川県横浜市生まれ。
立教大学文学部卒業後、1976年光文社入社。「女性自身」編集部、「カッパブックス」編集部を経て、2002年「光文社ペーパーバックス」を創刊し編集長を務める。2010年からフリーランス。現在、作家、ジャーナリストとして取材・執筆活動をしながら、紙書籍と電子書籍の双方をプロデュース中。主な著書に「TBSザ・検証」(1996)、「出版大崩壊」(2011)、「資産フライト」(2011)、「中国の夢は100年たっても実現しない」(2014)、「円安亡国」(2015)など。近著に「米中冷戦 中国必敗の結末」(2019)。

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