■英国にとって重要なのは「欧州戦争勝利の日」
次に英国だが、 英国では対日戦争の勝利記念日を8月15日としているが、記念行事などはまったくない。第2次大戦において重要なのは、対独戦であり、ドイツが降伏した5月8日を「V-E Dayデー」(Victory in Europe Day:欧州戦争勝利の日)として行事を行なっている。
ただし、英国にとってもっとも重要なのは、アメリカと同じような「戦没者追悼記念日」で、この日は、全国各地の教会や自治体で追悼行事が行われる。
その日は、11月11日にもっとも近い日曜日で、11月11日が第1次大戦の終戦日だからだ。
つまり、英国という国家にとって、第2次大戦の勝利より、第1次大戦の勝利の方が重要であり、記念日の目的は戦没者の追悼なのだ。
■中国は「対日」、ロシアは「対独」で盛大な式典
ところが、欧米諸国と比べて盛大に対日戦の勝利を祝うのが、中国、ロシア、韓国である。中国、ロシアでは、節目の年には、軍事パレードを含む盛大な式典が行われる。
ただし、中国、ロシアとも、記念式典は9月3日だ。
中国の場合、日本が降伏文書に署名した翌日の9月3日に、蒋介石が祝典を行なったので、それを踏襲している。北京政府は、この日を「抗日戦争勝利記念日」と定め、2015年の戦後70年には、天安門広場前で壮大な軍事パレードを行った。このとき、習近平主席は、ロシアのプーチン大統領を主賓として招いている。
ロシアは、対日戦より対独戦をもっとも重要な勝利の日とし、毎年5月9日、モスクワの赤の広場で盛大な軍事パレードを行なってきた。今年は、クライナ戦争を抱えているため、とくに盛大に行い、主賓の習近平をはじめとして、ブラジルなど対ロ制裁に加わらなかった26カ国の首脳たちを招いた。
韓国は、なぜか日本から正式に独立した9月2日を選ばず、8月15日を「光復節」として祝い、国民の休日にして盛大に」祝っている。
■中国は北京の軍事パレードにトランプを招待
このような世界の状況のなかで、戦後80年の今年、とくに厄介なのが、中国がまたも派手な式典をやろうとしていることだ。すでに、北京政府は、「抗日戦争勝利80年」を記念して、天安門広場前で盛大な軍事パレードを行うことを発表している。
もちろん、主賓はプーチンで、ロシア国営のタス通信は、プーチンがこれを歓迎していると伝えている。驚くべきは、北京が軍事パレードにトランプ大統領を招待する意向であると、発表したことだ。
これにもしトランプが応じれば(そんなことはあり得ないだろうが)、習近平、プーチン、トランプと3人の独裁者が対日戦争の勝利を祝うという、日本にとって「悪夢」のようなことが起こる。トランプは、今年、自分の誕生日に首都ワシントンで30年ぶりに軍事パレードを行うという「パレード好き」である。
欧米諸国は、これまでおしなべて派手な戦勝記念式典をしてこなかった。それをやるのは、中国やロシアだけだ。強権国家にとっては、戦争の勝利を派手に祝うことが、国民の支配・統治のために欠かせないからだ。
この続きは9月5日(金)発行の本紙(ウェブサイト)に掲載します。
※本コラムは山田順の同名メールマガジンから本人の了承を得て転載しています。

山田順
ジャーナリスト・作家
1952年、神奈川県横浜市生まれ。
立教大学文学部卒業後、1976年光文社入社。「女性自身」編集部、「カッパブックス」編集部を経て、2002年「光文社ペーパーバックス」を創刊し編集長を務める。2010年からフリーランス。現在、作家、ジャーナリストとして取材・執筆活動をしながら、紙書籍と電子書籍の双方をプロデュース中。主な著書に「TBSザ・検証」(1996)、「出版大崩壊」(2011)、「資産フライト」(2011)、「中国の夢は100年たっても実現しない」(2014)、「円安亡国」(2015)など。近著に「米中冷戦 中国必敗の結末」(2019)。
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