■助成金を凍結し、学問、研究、教育の自由を奪う
かつて娘をアメリカの大学に留学させた親として、これまでトランプの大学弾圧をずっと注視してきた。それで思うのは、トランプはつくづくバカだということだ。
たとえDEI(Diversity, Equality, and Inclusion:多様性、公平性、包括性)が許せなくとも、アファーマティブ・アクション(AA:affirmative action:積極的格差是正)が逆差別だといっても、また、anti-Semitism(反ユダヤ主義)がユダヤ人迫害だといっても、弾圧は行き過ぎだ。
トランプは大学に対して助成金を凍結し、治安部隊を送り込み、留学生ビザを制限して、大学を自分が思うままに操ろうとしている。本来、学問、研究、そして教育は自由であり、ときの政権によってコントロールされることなどあってはならない。
白人優位主義者(white supremacy)で人種差別主義者(racist)のトランプは、現実が見えない。アメリカの世界覇権の力の源泉となっているGAFAMなどのビッグテックは、その多くを移民の子供たちや留学生がつくった。したがって、その源を絶ってしまおうというのだから、とことんバカと言うほかない。
■移民の子、留学生たちがつくったビッグテック
いまをときめくNVIDIAのCEOのジェンスン・フアンは台湾の台南出身の留学生。その後、両親がアメリカに移民したので移民の子供と言える。
生成AIの口火を切った「ChatGPT」開発の生みの親(CTO:最高技術責任者)と知られる女傑ミラ・ムラティは、アルバニア出身の留学生である。
グーグルの共同創業者セルゲイ・ブリンはロシア生まれで、移民の息子。テスラやスペースXのCEOイーロン・マスクが南アフリカ出身であるのは、あえて書くまでもないだろう。グーグルのCEOサンダー・ピチャイ、マイクロソフトの3代目CEO サティア・ナデラは、インド出身だ。
アメリカの大学には、彼ら移民の子、留学生と自国の学生たちが、自由に議論し、研究し、起業する文化、環境があった。だから、ビル・ゲイツ、ステーブ・ジョブズ、マーク・ザッカーバーグらが育った。
■「兵糧攻め」により人員削減の大リストラ
当初、名門大学はトランプの弾圧に抵抗した。しかし、ここにきて、政権の意向に沿った「改革」を進めるケースが相次いできた。何億ドルもの助成金を失うリスクは想像以上に大きい。
助成金の凍結は、いわば「兵糧攻め」であり、これが長期化すれば、各大学は財政危機に陥る。
これまで、たとえば、世界一の医学部を持つジョンズホプキンズは2200人もの職員・研究者を解雇し、いくつかの研究プログラムを閉鎖した。他大学も同様で、スタンフォードは360人、ノースウェスタンは425人、コロンビアは180人、ボストンは120人の職員・研究者を解雇し、財政難を乗り越えようとしてきた。
しかし、もうこれ以上の抵抗を続けられないという状況になり、名門ではコロンビア、ブラウン、Uペンの3校が、トランプ政権と「和解」した。
いまのところ、ハーバードとUCLAは抵抗を続けているが、どちらも和解する方向に舵を切ったと報道されている。
■コロンビアは和解金を払い政権に従うことに
では、なぜコロンビア、ブラウン、Uペンの3校が助成金カットによる兵糧攻めにあったのか、確認しておきたい。それにより、トランプがなにを標的としたのかが明確になる。
まず、補助金の凍結の起点となったコロンビアだが、これは、ガザでの反戦を訴え、イスラエルを非難する留学生中心の過激な行動に対する見せしめだった。要するに、反ユダヤ主義は許さないというのだ。トランプ政権は、即座に約4億ドルの補助金を凍結した。
これに対して、コロンビアは、最終的に、連邦政府に3年で2億ドル以上の和解金を支払うことに同意した。さらに、アファーマティブ・アクションを採用しない、学内での講義運動を取り締まる、監視委員を設けるなどの条件にも同意した。
この合意の実行により、連邦政府は、学生への対応をめぐる公民権法違反の疑いでの調査を止め、助成金の凍結を解除することになったのである。
この続きは9月19日(金)に掲載します。
※本コラムは山田順の同名メールマガジンから本人の了承を得て転載しています。

山田順
ジャーナリスト・作家
1952年、神奈川県横浜市生まれ。
立教大学文学部卒業後、1976年光文社入社。「女性自身」編集部、「カッパブックス」編集部を経て、2002年「光文社ペーパーバックス」を創刊し編集長を務める。2010年からフリーランス。現在、作家、ジャーナリストとして取材・執筆活動をしながら、紙書籍と電子書籍の双方をプロデュース中。主な著書に「TBSザ・検証」(1996)、「出版大崩壊」(2011)、「資産フライト」(2011)、「中国の夢は100年たっても実現しない」(2014)、「円安亡国」(2015)など。近著に「米中冷戦 中国必敗の結末」(2019)。
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