■Uペンはトランスジェンダー選手の登録を抹消
ブラウンの補助金凍結は5億1000万ドル。その理由は、コロンビアと同じ反ユダヤ主義による抗議行動である。凍結解除の合意内容は、地元のロードアイランド州の職業訓練団体へ10年間にわたり5000万ドルを寄付する。また、
イスラエルに関する研究や教育、ユダヤ学研究のプログラムを充実させる。
性別を「生物学的な男女」のみに限定する政府の方針に従う。さらに、コロンビア同様、アファーマティブ・アクションを採用しないなどだ。
Uペンが凍結された助成金は1億7500万ドル。その最大の理由は、在学中に男性から女性に性別変更したリア・トーマスというトランスジェンダー選手が、2022年の全米大学体育協会(NCAA)選手権の競泳女子レースで優勝したこと。
これが、トランスジェンダー選手の女子スポーツ参加を禁じた大統領令に反するというのだ。
そのため、和解はトランスジェンダー選手の記録を抹消し、大統領令を守ること。さらに、他大学同様に、DEI政策、アファーマティブ・アクションを採用しないなどである
■「民主党リベラル」対「共和党保守」の争い
このように見てくると、トランプの大学弾圧は、共和党と民主党の争い、すなわち「保守vs.リベラル」(右派vs.左派)の争いが、そのまま大学に持ち込まれたと言える。あるいは、エリート層と非エリート層の対立とも言えるだろう。トランプは、民主党リベラルのオバマ、バイデンのエリートによる政治を標的に、非エリートの庶民の怒りを煽って選挙を勝ったからだ。
それはとりもなおさず、DEI、アファーマティブ・アクション、トランスジェンダー容認などのリベラルの行き過ぎに対する勝利でもあった。だから、それを続けている大学、エリート集団である大学は格好の標的なのである。とくにハーバードなどのアイビーリーグとUCLA、スタンフォード、ジョンズホプキンズ、シカゴなどの名門トップ大学は、弾圧のしがいがあると言えるだろう。
ハーバードの場合、DEI、アファーマティブ・アクションのやりすぎで、テニュア(終身在職権)にふさわしくない黒人女性の政治学者のクローディン・ゲイにそれを与え、昇進させて黒人初の学長にまでしてしまったのだから、最大の標的としてふさわしかった。
ちなみに、彼女は、イスラエルのガサ攻撃への対応で反ユダヤ主義を許容していると批判され、そのうえに論文盗用疑惑が発覚し、2024年1月に学長を辞職している。
■トランプの大学弾圧は4年間でも深い傷跡を残す
いずれにせよ、トランプ政権により、アメリカの大学の価値は大幅に低下し、今後、世界中から優秀な学生が集まらなくなる可能性がある。
アメリカ留学は、若者たちの夢の実現のための最大の選択肢ではなくなっていく。また、トランプの大学弾圧により、優秀な学生、研究者がアメリカを離れ、ほかの国へ移ることも加速している。
こうなると、必然的に、アメリカ大学のレベルは落ちる。最高の留学先としてのアメリカの大学の優位性は着実に失われる。
これがトランプ政権による一時的なものなら、まだ救われる。しかし、たった4年間でも深い傷跡を残す可能性がある。次が民主党の大統領になったとしても、トランプの愚策を一気に変えることは弊害が大きすぎるからだ。
アメリカ国際教育連盟は、留学生がいなくなれば「彼らが米経済にもたらす438億ドルと年間40万人近いアメリカ人の雇用を失うことになる」と指摘している。
■もう一つの大問題、卒業生の就職が氷河期
最後にもう一つ、アメリカ留学が今後人気を失うかもしれないことを述べておきたい。
それは、「エコノミスト」誌や「ブルームバーグ・ビジネスウィーク」誌などが指摘している大学卒業生の就職が困難になっていることだ。とくに、テック業界や金融業界への就職は氷河期に突入している。
ニューヨーク連銀のデータによると、22-27歳の大卒者の失業率は今春、約4年ぶりの高水準の5.8%に達している。その原因は、企業各社が新卒採用予定数を大幅に削減したからだが、深層原因は、生成AIの台頭によりエントリーレベル職の一部が機械に置き換えられてしまったからだ。
短時間でプログラミングコードの作成などを行える生成AIができる仕事を、わざわざ新卒学生を雇ってやらせる必要がなくなったというのだ。
メタCEOのマーク・ザッカーバーグは、「AIエンジニアが初級から中級レベルのコーディング業務の多くを代行する」と述べている。
アメリカの大学では、文系(ヒューマニティーズ)の人気がガタ落ちし、代わりに理系(サイエンス)、とくにコンピュータ関連の科目の人気が高まった。しかし、これが生成AIの進展により崩れつつある。時代は大きく変わっていく。
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山田順
ジャーナリスト・作家
1952年、神奈川県横浜市生まれ。
立教大学文学部卒業後、1976年光文社入社。「女性自身」編集部、「カッパブックス」編集部を経て、2002年「光文社ペーパーバックス」を創刊し編集長を務める。2010年からフリーランス。現在、作家、ジャーナリストとして取材・執筆活動をしながら、紙書籍と電子書籍の双方をプロデュース中。主な著書に「TBSザ・検証」(1996)、「出版大崩壊」(2011)、「資産フライト」(2011)、「中国の夢は100年たっても実現しない」(2014)、「円安亡国」(2015)など。近著に「米中冷戦 中国必敗の結末」(2019)。
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