
トランプはつくづく愚かだと思う。このまま温暖化が進めば、人類が生存の危機に瀕するときがやってくる。そのとき、世界はいったいどうなっているだろうか?
トランプ政権になってから、アメリカは温暖化対策において、世界から大きく遅れようとしている。このままでは、中国に追いつけない。となれば、危機が顕在化したとき、世界をリードするのは中国となり、アメリカは世界覇権を喪失する。
温暖化対策ばかりではない、AIでのリードも失えば、世界覇権は完全に中国に移ってしまうだろう。私たちは中国主導の下で、温暖化をなんとか阻止する努力を続けて生きていくことになる。
■研究論文の数で中国がアメリカを上回る
日経新聞の8月21日記事『気候変動の研究、中国が論文数で米国超え 国際社会で発言力』は、危機感のない人間にとっては、「あっ、そうなの」程度のニュースだろう。
しかし、毎日、記録的な猛暑の中で暮らしているというのに、そんな反応では将来はおぼつかない。
日経新聞の記事内容は、じつにシンプルだ。
日経新聞が、オランダの論文出版大手エルゼビアが持つ国際学術論文データベース「スコーパス」を使って調べたところ、国ごとの気候変動研究の論文数で、すでに2023年に中国がアメリカを上回っていたというもの。
よって、このまま行けば、温暖化対策、気候変動対策の分野での中国の国際的な発言力は高まる一方になる。それに反比例して、トランプ政権下で温暖化対策をおざなりにしているアメリカの地位は低下していくというのだ。
■日本の温暖化に対する意識はなぜ低いのか?
それにしても、日本人の温暖化に対する関心、危機感は薄い。トランプの妄言通りに「温暖化はフェイク」として、国会で「温暖化対策をやめろ!」という参政党が勢力を拡大していることが、それを象徴している。
参政党と同じく、「温暖化陰謀論」を信じている人間は、かなり多い。私の周囲にもそういう高齢者が何人もいる。
また、温暖化を認識している人間でも、感情的にこれを受け入れたくないということがある。
「環境問題に関してはこれまで日本は優等生だった。それなのに、いまや国際的に批判ばかりされる」「CO2の排出量は中国やアメリカのほうが圧倒的に多い。それなのに、日本がなぜそこまでやらねばならないのか」と反発したいのだ。
さらに、温暖化対策を中国がリードしていることが気に入らない。太陽光パネル、蓄電池、EVと、温暖化防止のための製品のほとんどが中国製であることが気に入らない。
しかし、最近の猛暑、豪雨を見れば、もうそんなことは言っていられないと思う。
■「1つの大きく美しい法案」で温暖化対策を骨抜き
それにしてもトランプの認知能力は、“温暖化無関心”日本人よりはるかに低い。テキサスで大洪水被害が起こっても、東海岸で記録的なヒート現象が起こっても、「温暖化は中国による陰謀」と信じ込んで、目の前の事実を見ない。
その結果、「トランプ2.0」になって、アメリカの温暖化防止対策はほぼストップした。まずは、地球温暖化対策の国際的枠組み「パリ協定」からの離脱。続いて、バイデン前大統領が制定した「インフレ抑制法」(IRA)の骨抜きである。
インフレ抑制法には、2年間で3720億ドルの脱炭素分野への民間投資と33万人以上の雇用創出効果が盛り込まれていたが、これを「1つの大きく美しい法案」(One Big Beautiful Bill Act)を成立させて、ほぼ無にしてしまったのだ。
この続きは9月23日(火)に掲載します。
※本コラムは山田順の同名メールマガジンから本人の了承を得て転載しています。

山田順
ジャーナリスト・作家
1952年、神奈川県横浜市生まれ。
立教大学文学部卒業後、1976年光文社入社。「女性自身」編集部、「カッパブックス」編集部を経て、2002年「光文社ペーパーバックス」を創刊し編集長を務める。2010年からフリーランス。現在、作家、ジャーナリストとして取材・執筆活動をしながら、紙書籍と電子書籍の双方をプロデュース中。主な著書に「TBSザ・検証」(1996)、「出版大崩壊」(2011)、「資産フライト」(2011)、「中国の夢は100年たっても実現しない」(2014)、「円安亡国」(2015)など。近著に「米中冷戦 中国必敗の結末」(2019)。
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