2025年12月20日 NEWS DAILY CONTENTS

NYで進化する「カワイイ」とは? 日本発の “原宿カルチャー” の現在地

12月11日から14日までニューヨークで開催された「KAWAII HOLIDAY MARKET」は、日本のカワイイカルチャーに影響を受けた世界各地のクリエーターが、それぞれの解釈でファッション、アート、音楽などジャンルを横断し、自己表現を行うイベントだ。

会場には、原宿系のカワイイ小物やファッションなど、確かに日本発の「カワイイ」があふれていたが、そこにはニューヨーク特有の空気感があった。クリエーターの熱量と、それを応援する人たちのパワーが重なり合い、一体感のある不思議な熱を帯びた空間が広がっていた。

カワイイホリデーマーケットのTシャツ

この場所に立ち、改めて考えた。「カワイイ」とは、いったい何なのか。その答えを探るため、会場に集まったクリエーターたちに話を聞いた。

カワイイは、自己表現 
増田セバスチャン(イベント共同主催者)

手作りの帽子がファッションのポイント 増田セバスチャン

東京とニューヨークを拠点に活動するアーティスト。アートとファッションを横断する表現で、きゃりーぱみゅぱみゅ「PONPONPON」MVなどを手がけ、世界にKAWAII 文化を広めてきた、増田セバスチャンはこう語る。

「カワイイというのは、自己表現であり、自己肯定をするための精神的支柱。以前はファッションなど表面的なものとして捉えられがちだったけれど、カワイイを自分の中にもっていれば、今日一日を生きられる、そういうもの」

さらに、日本とアメリカにおけるKAWAIIの違いにも触れた。

「日本の“かわいい”は、言葉を聞いた瞬間に小さな人形や子猫、子犬といった具体的なイメージがすぐ浮かぶ。共有された感覚が、すでに日本の中にはある。一方、アメリカでは、語源や意味を知らない人も多いからこそ、“Kawai”という言葉が、よりダイレクトに感覚として入ってくる。日本語は分からなくても、“すごい”“素敵”という意味を込めて『Kawaii』と言ってくれる人がいる」

日本では意味が共有された言葉、アメリカでは意味が固定されていないからこそ広がる言葉。増田セバスチャンの言葉は、KAWAIIがすでに国境を越えた価値観になっていることを示している。

内側にあるものが、外に現れたもの
紅林大空(くればやし はるか)

紅林大空さんデザインのカワイイブレスレッド

原宿系モデルとして活動後、ファッションや音楽、ビジュアル表現を通じてKAWAIIカルチャーを世界に発信し、国際的な支持を集める、紅林大空(くればやし はるか)はこう語る。

「カワイイって、自分の内側にあるものなんだけど、なぜか外側に見えているもの。一番内側にあるはずなのに、外に現れてしまうものだと思う」

さらに彼女は、日本とアメリカにおけるKAWAIIの違いについては、「日本のKAWAIIは、他人からどう見られるか、浮いていないかを意識している気がする。ニューヨークのKAWAIIは、『これが着たい』『これが好き』という情熱が先にあって自分にとってのKAWAIIを貫く強さがある」

KAWAIIは意識して“作る”ものではなく、内面の感情や価値観が、自然と外ににじみ出た結果なのかもしれない。

言葉を越えて、人をつなぐもの
えるにゃん

えるにゃんのステージは大盛りあがり

このイベントのために日本からニューヨークを訪れた、バンド「進撃のあわけ」のボーカル・えるにゃんは、学生時代から原宿カルチャーに親しみ、自分らしい表現を音楽とともに追求してきた。

えるにゃんにとって、学生時代から通い続けてきた原宿は「自分を自由に表現できる街」だったという。初めて訪れたニューヨークで強く感じたのは、「KAWAII」という言葉がもつ力だった。

「言葉が違っても、文化が違っても、カワイイという言葉だけで一つになれる感覚がある。自分がカワイイと思ったら、それがカワイイ。それは不思議と、他の人にも伝わるんです」

幸せと自己表現
サイバーガール(Cybr.grl)

ヘアクリップを作るワークショップは売り切れになっていたサイバーガール

レインボーカラーを愛するデコラファッション愛好家であり、ファッションデザイナー、YouTuber、アーティストのサイバーガール(Cybr.grl)は、こう語る。

「Kawaiiは、人それぞれ違う意味をもっていると思う。私にとっては、幸せであること、自己表現であること、そして自分だけでなく、周りの人にも喜びを届けること。自分に正直でいること」

テキサス在住の彼女にとって、KAWAII HOLIDAY MARKETは、人と直接会い、時間を共有できる貴重な機会だという。ここでのKAWAIIは、スタイルやモノではなく、関係性や時間そのものへと広がっている。

「変なもの」と「変なもの」が混ざるとき
TEN TEN NYCイベントオーガナイザーの視点

今日のファッションのポイントはピンク

本イベントを主催したTEN TEN NYCのイベントオーガナイザーは、KAWAIIをこう捉える。

「かわいいって、猫を見て『かわいい』と思う感覚もあるけれど、“変なもの”と“変なもの”が混ざったときに、急にかわいくなる瞬間がある。きれいな空間にスーツを着た男性がいて、少し浮いているけれど、ここになじもうとしている。その感じが、私にとってはかわいい。かわいいと愛おしいは、混ざっているのかもしれません」

さらに、彼女はニューヨークで広がっている原宿系ファッションやカワイイを「ミュータント」という言葉で表現する。それは、日本で生まれたものが、ニューヨークという異なる文化圏に渡ることで、そのまま再現されるのではなく、別の文脈の中で変異・進化していく現象を指している。

日本では「原宿系」と呼ばれるかもしれないが、ニューヨークでは別のスタイルに変化する。このプロセスを「新しいものになって、また日本へ戻っていく循環」だと語る。KAWAIIやJファッションは、固定された文化ではなく、世界の中で変異しながら育ち続ける、生きたカルチャーなのだ。

取材を通して感じたのは、カワイイとは、自分らしくあることなのではないか、ということだった。だからこそ、そのかたちは一つではなく、人の数だけ存在し、進化し続けていく。そして同時に、カワイイは、世界中の人たちをつなげる不思議な力を持つ言葉でもある。

それは、KAWAII HOLIDAY MARKETで多くの人と交わした会話や、会場全体に流れていた空気から自然と伝わってきたことだった。

取材・文・写真/藤原ミナ

                       
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