Vol.26 ヴァイオリニスト 葉加瀬太郎さん

見て、聴いて楽しい、そういう音楽やりたい

 高い音楽クオリティーはもちろん、ユニークかつ斬新な演出で世界中のファンを魅了してやまないヴァイオリニストの葉加瀬太郎さん。ニューアルバム「JAPONISM」を引っ提げ、自身初となるワールドツアーの一環としてこの12月、再びNYでその音色を響かせる。2010年にブルーノートで開催されたNY初の単独公演からはや3年、今回はエレクトリックバンドを引き連れ、またひと味違ったダイナミックなパフォーマンスを披露する。今回取り入れた和楽器の魅力や、ツアーに懸ける想いをうかがった。 (インタビュー:11月5日、インタビュアー 当銘 千絵)

ー初のワールドツアーで今回、NYを選ばれました。

 みんなが言うことでしょうけど、NYというのはやはり音楽やアートをやっていたりすると、今も昔もずっと最先端の街、世界の中心の街で、とてもエキサイティングなところなんですよね。自分も音楽を背負ってNYにコンサートをしに行くっていうのは、すごく光栄なことだと思うし、その一方でプレッシャーもたくさんあります。気持ちとしては、緊張感とともに、自分の喜びを噛み締めたいなぁというのが一番ですね。〝ニューヨーク・イズ・ニューヨーク〟ですから。

ーニューアルバム名は「ジャポニズム」。西洋の楽器(ヴァイオリン)と和楽器の融合が斬新です。コラボレーションの実現に至るまでの経緯を教えて下さい。

 アルバムの中で東儀秀樹さん、そして上妻宏光さんの三味線だったり、藤原道山さんの尺八を入れてる曲は数曲ですが、一番初めはおそらく去年末くらいだったと思います。観光庁の方から、世界各国に向けて「もっと日本へ遊びに来て下さい」っていうキャンペーン企画があり、そのテーマ音楽やイメージ音楽を頼まれたんです。それで曲を書いて、分かりやすい日本の和楽器を入れて、外国の人にアピールしたいと思ったのがきっかけですね。自分の中でも日本の古典的なメロディーだったり雰囲気を取り入れながら作曲ということになって、ならば、もう和楽器奏者として日本で演奏されている人の中でもメジャーな、てっぺんからどんどん頼んでいこうっていうことで(笑)。

ーなるほど。インパクトと掴みはバッチリですね。

 そうそう、東儀さんも上妻君も、道山君も、過去10年くらいいろんな交流がありまして、ずっと音楽を一緒にやったり、ライブに参加してもらったりっていうことはあったので。今回はもう気安くじゃないですけれども、とにかく日本のために、観光庁の依頼だから「これ曲作るんで、参加しろ!」っていう(笑)。

ー笑 〝素晴らしいものを作りたい〟という気持ちが一緒でしたら、ジャンルは違えど楽曲作りはスムーズに進んだのでしょう。

 これはもう、このお三方に限って言いますと、単に彼らは伝統楽器を演奏している奏者というだけではなくて、彼ら自身の音楽をクリエイトされているアーティストですから、その次元での会話は非常にスムーズに行くんです。だから逆に言うと、尺八の音が欲しかったからっていうんじゃなくて、道山君の音が欲しかったから、あるいは上妻君が欲しかったから、東儀さんの音楽が欲しかったから、っていうことだと思いますね。楽器は違うけど、志は同じでしたからね。

ー観光庁からの依頼ということは、「日本代表」と言っても過言ではないですよね。ツアーではニューアルバムからの楽曲がメーンに?

 そうですね。今、日本でそのプログラムを背負って全国ツアーをやっている最中ですが、海外公演でもそれを中心に。それに加えて、過去に作った曲で、とってもみんなに可愛がって頂いているであろう、と思われる曲も入れながらやろうと思っています。

ー前回のNY単独公演はブルーノートででしたが、今回は1400人収容のタウンホールと規模が全く異なります。

 ライブハウスで伝える音楽も、もちろん僕は素晴らしいと思います。ただやはり、日本のコンサートではシアターでショーアップということをずっとやっておりますから、その形を持って行くということ、とにかくまずシアターでやりたかったんです。キャパシティが大きいので若干、うまくできるのかな?とか、お客さんが来て下さるかな?と心配になることもありますが…(笑)。ただやっぱり、劇場でしかできない舞台っていうのがあるので、それは楽しみにしています。

ー今公演の見どころは?

 前回NYでやった時はライブハウスで(観客と)近い距離でのコンサートでしたが、今回はとにかく劇場だからこそできるショーアップ。照明も含めて、見て楽しい、聴いて楽しい、そういう音楽をやりたいと思っています。今の時代のヴァイオリンの楽しい音楽っていうのは、こういうことなんだよって。それが、僕が一番みなさんと一緒にシェアしたい気持ちです。

ー今回、和楽器奏者の方々とも共演されていかがでしたか?

 若い時から、いつか和楽器の要素を取り入れた音楽作りをしたいなと思っていたんです。ただその半面、少しシャイになる部分もあったんです。日本に住んでいると、なかなか触れることのない世界でもあるんです。例えば、能だったり狂言だったり、歌舞伎みたいなものを観ても、我々日本人であっても結構エキゾチックな感覚を持って接していたと思うんですね。インドネシアのガムランを聴くのと同じ様な感覚でものを見たりしてたと思うのですが、自分の国の音楽だといっても取り入れるのに少し抵抗があったんです、若い頃は。
 また7年前からロンドンに住み始めたことが大きくて、自分が意識する、しないは別として、日本のことについて話したり気にする機会も多くなるんですよ。特にロンドンなんかにいると、NYもまるで同じことだと思うのですが、まずあいさつをして、きょうのお天気について話して、昨日のスポーツの結果について話して…。その後、どこから来たの?ってことになるわけだな。で、日本ってどうだろう?っていう、そういう話をしなくちゃならないじゃない? そうするとね、自分の国のことについて考える機会が増えてくるんだよね。外国に住んでいたらみんなそれを一番に思うと思うし、パーティーに行ってもさぁ、お酒飲みながら話してると「東京ってどんなところ?」って聞かれたり。日本で暮らしてる時には気が付かなかったことにもどんどん気付いていって、自ずと愛国心みたいなものが高まっていくんですね。そんな風に過ごしていく中で、これは年を取ったっていうせいもあるかも知れないけど、さっき言ったエキゾチックに聴こえていた日本の伝統音楽だったり、それこそお祭りの時の太鼓の音だったり。もっと言うと、北島三郎さんの歌声とかがなんかこう、DNAレベルで感動するっていうんですか。脳みそじゃなくてね。そういう経験が随分と何度もあったんですね。心が震えるっていうのかしら、お祭りの太鼓の音を聞くだけでね…。これは若い時にはなかなか感じなかったのよ。

ーロンドンに住み始めたことで客観的に日本を見つめて、また自然に出てくる思いがあったのですね。

 外に出た時に、日本の良いところも悪いところもすべて含めて、いろんなことを考え、感じることができる。その結果、僕、ロンドンに住み始める前よりも、今の方が日本あるいは東京のことが好きなんです。ロンドンでの生活も大変充実しているし、大好きなんだけど、それ以上に外国で生活していると、日本ってなんて素敵な国なんだろうっていうことを実感するんですね。その素直な気持ちが、今回の音楽作りのきっかけになりました。

ーロンドンの次はNY生活なんていかがでしょう?

 実は昔、NYに住もうと心に決めていたんですよね。ただ、そのうちに子どもが生まれたりっていうことがあって、子どもが小さいうちはロンドンがいいなぁっていう気持ちが大きくて。僕の娘はロンドンで成長してもう今14歳になるんですけど、頭の中はもうアメリカのことしかないような子で(笑)。だから、いつかはやっぱり住みたいなと思っていますけどね。

ーぜひ! たくさんのファンがお待ちになってますよ。最後に、葉加瀬さんの公演を楽しみにされているファンの方々へメッセージをお願いします。

 僕もロンドンで暮らす、いち外国人として生活をする日本人のひとりとして、日本の外で暮らすということの大変さ、タフさっていうのは大変よく分かるので、そういう時に、自分の国のアーティストの音楽を一緒に楽しんでっていうのは、泉のようなものになると思うんです。だから、元気も持って行きたいと思うし、僕自身もみなさんからパワーを頂きたいなと思うので、応援してほしい(笑)。一緒に楽しんで、良い夜にしたいなと思います。

コンサート情報
12月5日(木)午後8時〜
Town Hall 123 W 43rd St, NYC(bet 6th & 7th Ave)
チケット:49.50ドル〜
http://www.ticketmaster.com/Taro-Hakase-tickets/artist/1885234