子供をいかに小さなスマートフォンの画面から顔を上げさせるか?指だけでなく身体全体を使わせるか?ほんの10年前まで考える必要のなかった問題に、今、親世代は直面している。そしてこのデジタル環境の中で子供が育つことによる、後年の影響はまだ知るよしがない。自らの子育てから得た危機感を元に、医師でありフィルムメーカーである母親が撮影したドキュメンタリー映画「Screenagers(スクリーンエイジャーズ)」が全米で静かなブームを起こしている。
画面を見つめ続ける我が子への不安
「自分がティーンの親になり、思いもよらない困難にぶつかりました。子供たちがスマートフォンの画面に費やす時間がどんどん増えていくのです。14歳の息子はビデオゲームに夢中で、12歳の娘はありとあらゆる理由をつけて、どうしても自分のスマートフォンが必要だと必死で訴えます。彼らの意見も受け止めながら、解決していこうと思うのですが、私が感情のコントロールができなくなって、突然キレてしまう。そして怒鳴った後に罪悪感に陥るのです。」
子供たちのネット依存の問題をドキュメンタリー映画化したディラニー・ラストン(Delaney Ruston)氏が、「Screenagers」を撮影するきっかけとなったこの気持ちを、自分の気持ちの代弁のように感じる親は多いだろう。
ラストン氏は、我が子がティーンに差し掛かり、なんとなく懸念していた問題が、自らの家庭で激しいバトルとして展開されるにつれ、初めは自分の子育ての問題だと理解しようとした。しかし、次第に他の親たちも同じ問題を抱えながら、あまり外に向かって解決策を求めていない、つまり自分の子育ての問題であり、子供のスマホ依存、ゲーム依存の悩みは自分の子育ての失敗を表明することと同じで、口にすることが躊躇われているということに気がつく。自分はひとりではないこと、そして自分たちが経験しなかったデジタル環境で育つ子供たちの成長への影響がどういうものになるのか、外へ向かって問題意識を共有していくべきだと思い至った。
子供たちの実態を克明に描く
このドキュメンタリーは中学生から高校生にかけてのティーンとネット使用の実態をいろいろなケースで追う。閉ざされた子供部屋のドアの外に立ち、どのように声をかけるべきかためらう母親の姿、ゲームに熱中する子供の姿に、別人を見ているようだと嘆く母親、クラスメートに遅れをとるまいと、自分の下着姿を請われるままに送信してしまい、いじめの対象になる少女、大学からの連絡を受けて初めて、身の周りのこともせず、食事もとらずにコンピュータに張り付く子供と対面した親のショック、ネットのことも知らないくせに何がいけないのかと、本気で親を説得する少年など、どの親子の姿も国も文化も環境も貧富の差も越えてあまりに共通していることに、愕然とする。

映画「Screenagers」のホームページ
ューヨークの学校での規制
ニューヨーク市の公立学校では3年前までは、キンダーから高校まで、全ての学校において、個人のデジタル機器の持ち込みは禁止されていた。高校の校舎の前には、登校前の生徒の電話機を1日1ドルで預かる業者のバンが止まっており、下校時間には 生徒たちが先を争って自分の携帯電話を手に取る姿があった。ならば持って行かなければいいのだが、保護者にしてみれば、一歩校舎を離れてから、親子の連絡手段が途絶えることは、公衆電話の取り払われたこの大都会ではあまりに不安だ。
結果、このデジタル機器持ち込み禁止令は解かれることになるのだが、ほとんどの学校では学内での携帯使用に制約を設け、使用時間もランチタイムに限るなど、厳密に対応している。
それでも生徒たちは携帯電話が自分の手の届くところにすでに存在しているため、ネット使用の許される時間になると、ランチも忘れて携帯やタブレットを取り出し、廊下にグループになって座りこむが、見ているのは画面であり友達の顔ではない。映画に映し出される、携帯の画面を通してクラスメートと会話をする姿は、ネット以前の時代に学校生活を送った親を不安にさせる。
親の介入の必要性とその方法
映画には、大人が規制するよりも、自由にすることで子どもが自らコントロールすることを学ぶという見解も紹介される。しかし、保護者にとって相手にするのは子どもだけではない。
ゲーム制作会社は、プレイヤーがそのゲームの世界の外に出ていかぬように工夫を凝らしていると、指摘する大学教授。保護者はネット時代の子供の背後にある社会を無視できない。それは自分たちが作ってきた社会でもあるのだ。

監督であるラストン氏が自分の娘とスマートフォンを選んでいる映画の中一場面
宿題とインターネット
ン、ピンと音を立てて鳴るテキストメッセージ。宿題はインターネットに繋がっていないとできないという子供の主張も確かに一理ある。タイプをしている画面がインターネットゲームと指一本で切り替わる時代に、親が宿題をする10代の子供の背後で監視を続けることが解決策でないことも明瞭だ。
テクノロジーの発展は歓迎されるべきだが、その速度が目覚ましすぎて、親はティーンの状況をどう導けばよいのか混乱している。
ラストン氏は映画の中で、バンランス感覚を子供に身につけさせるための親の介入の重要性を主張する。親子の会話や、ルール作りは言うまでもないが、学校などコミュニティーを中心とする社会的な場での啓蒙も訴える。
ウェブサイトで、ラストン氏はこの映画は親子で観に来て欲しいこと、鑑賞後に主催団体によるパネルディスカッションなどを合わせて行うことで、親子間だけで発生しがちな争いを家庭内から外に出してゆくきっかけになればと述べる。
2016年の初上映以来、映画は全国の学校や団体で上映され続けている。ウェブサイトにはスクリーニングの日程も出ているが、子供の通う学校に上映会を提案してみるのも手だ。(文=河原その子)
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