摩天楼クリニック「ただいま診察中」(連載22) 呼吸器疾患 【5回シリーズ、その4】間質性肺炎(中)

間質性肺炎(中)
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今村 充 Mitsuru Imamura, M.D., Ph.D.
コーネル大学医学部呼吸器内科博士研究員。
2001年、東京大学医学部卒業、医師。08年、東京大学大学院医学系研究科卒業、医学博士。09年、東京大学保健・健康推進本部助教。11年、東京大学医学部アレルギー・リウマチ内科助教。12年、ハーバード大学Brigham and Women’s Hospital博士研究員。13年11月から現職。日本アレルギー学会認定専門医および日本呼吸器学会認定専門医。

間質性肺炎は、一般の肺炎と違って気管支や肺胞腔内ではなく肺胞の壁「間質」に発症する。原因は多岐にわたり治療法もさまざまだ。シリーズ中編の今回は、診断について聞く。続いて、原因が分からない「特発性間質性肺炎」の中でも、特に難治性が高く、難病指定されている「特発性肺線維症」についてコーネル大学医学部博士研究員の今村充医師に解説していただく。

Q間質性肺炎は、どのような検査で分かるものなのですか?
Aまず身体的所見ですが、聴診でマジックテープを剥がすような「パチパチ、ベリベリ」といった呼吸音がするのが特徴です。また、ばち指(手足の指の先端が太鼓のバチのように丸くなる)が見られることがあります。
 診断には胸部単純エックス線やCTなど胸部画像検査が必須です。エックス線では網状影(網の目状の陰影)や肺の縮小などの所見が認められます。さらに高分解CT検査(HRCT)を行い、間質性肺炎の中でもどの分類に入るかを推定します。
 呼吸機能検査を行うと、肺活量の低下(拘束性換気障害)および酸素と二酸化炭素のガス交換能の低下(拡散障害)が認められます。血液検査ではKL-6、SP-Dなどが間質性肺炎で上昇する特徴的なマーカーとして知られています。
 一定以上進行している場合、間質性肺炎の存在そのものについて診断するのは難しいことではありません。一方、どのタイプの間質性肺炎であるかを診断するのは非常に複雑で、専門的な知識を要します。
 まず先週述べた2次性間質性肺炎に該当するかどうかを確認します。じん肺や過敏性肺炎では職歴や鳥類の飼育、粉塵吸入の有無など環境を確認することが大切です。薬剤性間質性肺炎であれば、常用薬剤、常用健康食品の摂取歴が大切です。膠原病や関連疾患は、関節痛、筋肉痛、皮疹、乾燥症状などの身体所見や血液学的検査によりある程度鑑別できます。2次性間質性肺炎が除外される場合には「特発性間質性肺炎(IIPs)」が疑われます。ただ、例えば間質性肺炎が膠原病の発症に先行するタイプの病態も存在し、その場合には当然、鑑別は困難です。

Q次に原因が分からない特発性間質性肺炎の中で難治性が高く、難病指定されている「特発性肺線維症 (IPF)」について教えてください。耳慣れない病名ですが、どんな特徴がある疾患なのですか?
A文字通り肺が「線維化」してしまう病気です。

Q線維化とはどういう現象なのでしょうか?
A人間の体には、傷ができるとこれを修復しようとする機能が備わっています。分かりやすいのは皮膚の外傷の例です。けがをすると、血小板や凝固因子による止血の後、さらに線維芽細胞という細胞が増殖して、傷口を塞ごうとします。その際に線維芽細胞はコラーゲンやファイブロネクチンなどの細胞外基質と呼ばれるタンパク質を産生して、結果として傷口の部分が硬く閉じます。外傷後に線維芽細胞が一定程度増殖し活性化することは組織の修復に必要な機能と考えられ、傷が大きい場合、多少の瘢痕(はんこん)が残るのは一般的ですが、瘢痕部位の皮膚で線維芽細胞が過剰に増殖すると、ケロイドや肥厚性瘢痕と呼ばれる大きな腫瘤様の病変を形成します。
 このように、本来の機能を超えて過度に線維芽細胞が増殖してしまう場合を「線維化」と呼びます。線維化は皮膚に限らず肝臓、腎臓、心臓など体のあらゆる臓器で起こり得ます。
 例えば肝臓では、ウイルス感染やアルコール過剰摂取により慢性的に炎症が続くと結果として線維化が生じ、「肝硬変」と呼ばれます。腎臓では「慢性腎不全」と呼ばれる病態で、しばしば線維化が生じます。肺も同様です。肺に何らかの炎症が生じた際、本来は肺の組織を修復するために必要な線維芽細胞が異常に増殖して肺の線維化を来たし、むしろ肺の機能を阻害する場合があります。特発性間質性肺炎、2次性間質性肺炎ともに、しばしば肺の線維化を伴い、その中でもIPFは線維化の進行を止めるのが困難な疾患です。

特発性間質性肺炎の診断の流れ (「特発性間質性肺炎の診断・治療ガイドライン」より引用)

特発性間質性肺炎の診断の流れ
(「特発性間質性肺炎の診断・治療ガイドライン」より引用)

Q特発性間質性肺炎の1つと考えてよいのでしょうか?
Aはい。特発性間質性肺炎には、主なものとして6つのタイプがあるのですが、その中で多数を占めるのがこのIPFです。

QどのようにIPFと診断するのですか?
A特発性間質性肺炎が疑われ、さらにHRCTによって典型的なIPF像が認められ、臨床経過もIPFに合致する場合はIPFと診断します。一方、特発性間質性肺炎が疑われるもののHRCTが典型的なIPF像とは言えず、確定診断・他疾患の除外・治療方針の決定に必要と考えられる場合、特殊検査として気管支鏡検査や外科的肺生検を行うこともあります。これらの検査を入念に重ねながらどのタイプの間質性肺炎に該当するか、診断を下します。
 IPFは慢性的に線維化が進行する疾患で、非常に治療が困難で診断が下ってからの平均余命は5年以下と言われています。また急性間質性肺炎(AIP)と呼ばれるタイプの間質性肺炎は数日から数週間で急速に線維化が進行し重症化します。一方、非特異性間質性肺炎(NSIP)の一部や特発性器質化肺炎(COP)と呼ばれるタイプは、ステロイドなどの治療に比較的反応しやすいです。

 IPFについて少し理解したと同時に、この病気についてもっと知りたくなってきました。次週は、IPFの詳しい病態と診断された際の治療法について教えてください。
(つづく)