摩天楼クリニック「ただいま診察中」(連載23) 呼吸器疾患 【5回シリーズ、その5】間質性肺炎(下)

間質性肺炎(下)
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今村 充 Mitsuru Imamura, M.D., Ph.D.
コーネル大学医学部呼吸器内科博士研究員。
2001年、東京大学医学部卒業、医師。08年、東京大学大学院医学系研究科卒業、医学博士。09年、東京大学保健・健康推進本部助教。11年、東京大学医学部アレルギー・リウマチ内科助教。12年、ハーバード大学Brigham and Women’s Hospital博士研究員。13年11月から現職。日本アレルギー学会認定専門医および日本呼吸器学会認定専門医。

一般の肺炎と違って肺の間質(肺胞の壁)に発症する間質性肺炎。前回は、その中でも特に難治性が高い「特発性肺線維症」(IPF)について、コーネル大学医学部博士研究員の今村充医師に詳しく解説していただいた。シリーズ最終回では、そのIPFの詳しい病態と、診断された際の治療法、果たしてIPFを予防する手立てはあるのか? などについて聞く。

Q肺の線維化は死につながるほどの大問題なのですか?
A線維芽細胞が増えすぎて線維化が生じると、肺胞の壁(間質)が厚く、硬くなり、肺が正常に働かなくなります。肺の線維化が進行すると、酸素を十分に体内に取り込むことが困難な呼吸不全となります。酸素療法により吸気中の酸素濃度を上げることで、ある程度の呼吸不全には対応できますが、線維化の進行を止めることができなければ、最後には死に至ります。

Q確認ですが、肺胞自体が線維化するのではないのですね?
A主に肺胞の壁に線維化が起きるのですが、肺胞腔内にも滲出が起こり、線維化病巣をきたします。線維化が進行すると肺胞が潰れたりして肺胞構造がゆがみ、線維化の中に不規則な穴のような空間ができます。これはCT画像や組織で蜂の巣のように見え、「蜂巣肺」と呼ばれます。また末消の細い気管支が、周囲の肺胞領域の収縮に伴って2次性拡張を起こします。これは「牽引性気管支拡張」と呼ばれます。

Qいかにも甚大なダメージで治療は難しそうですね。
Aはい。いったん線維化が進んでしまった肺組織は、残念ながらもう元には戻りません。現時点の医療技術では進行した線維化を根本的に治療する手立てはないのです。従って、線維化が進行する前に治療することが大切です。ちなみに特発性肺線維症は難病に指定されています。

Q診断されたらどうすればいいのですか?
AIPF以外の間質性肺炎ではステロイドを中心とした免疫機能を抑える治療が主に行われます。一方、IPFに対してはステロイドの治療は効果に乏しく、副作用のリスクから逆効果と考えられています。線維化の進行は別の種類の薬で遅らせることになり、現時点では、IPF用の抗線維化薬としてピルフェニドン(日本で開発)とニンテダニブの2種類が認可されています。どちらも高額で、かつ消化器系に副作用を及ぼすリスクなどもありますが、限定的ながら呼吸機能の悪化を抑制する効果が示されています。

Q患者にとって大変な病気ですね。
AIPFと診断された人の経過は、実際には個人差が激しく、より緩やかに進行するタイプもあります。進行がゆっくりの場合には、ただ経過観察をすることもあります。
 一方、風邪などの感染症や過労がきっかけで、間質性肺炎が急速に重症化することがあります。これを「急性増悪(ぞうあく)」といいますが、この状態では急性呼吸不全に陥り、多くの場合、数日から3カ月ほどで亡くなってしまいます。ちなみに急性増悪の際には、IPFであってもステロイドなど免疫を抑える薬が比較的有効と考えられています。

Qある意味、肺がんより怖い病気ですね。
Aそうとも言えます。少なくとも肺がんの場合は、早期に診断できれば患部を外科手術で切除する方法があります。また一部の肺がんでは抗がん剤が劇的に効く場合もあります。

Q肺線維症の場合、硬くなった部分を切り取ることは不可能なのですか?
A無理ですね。この病気は「びまん性」と言って肺全体のあちこちに同時多発的に起こるため、肺の一部分だけを摘出すれば良いわけではありません。ちなみに肺移植は治療の選択肢の1つとなります。

Q肺線維症にならないためにはどのような予防方法がありますか?
A原因がまだ不明だから「特発性」と呼ばれるわけですが、1つ顕著なのが、喫煙者に発症しやすいことです。間質性肺炎と診断された喫煙者は禁煙すべきです。また間質性肺炎の発症予防としても、タバコはやめたほうがいいですね。

Q患者数は増えているのですか?
AIPFに関しては50代以上の人が発症する場合が多く、加齢と共に発症率が増加します。高齢化に伴って最近、患者数が増加しているようです。有病率は人口10万人当たりで見ると約10人の難病です。間質性肺炎の診断・治療には呼吸器内科に加えてアレルギー・膠原病科、放射線科、病理部など複数の科にまたがる専門的な知識が必要となることが多いので、専門の施設を受診することをお勧します。
 全ての間質性肺炎が死に至るわけではありませんが、特に困っているのは今回お話したIPFです。診断段階で2次性なのか特発性なのか、またその中でもどのタイプの間質性肺炎であるかを正確に見極めることが大切です。治る可能性のあるタイプもありますし、仮にIPFであっても経過には個人差があり、線維化の進行が緩やかなこともありますので、落胆はしないでください。線維化の原因やメカニズム、治療法については現在、世界中で盛んに研究されています。

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 5回にわたる呼吸器障害の最新情報、ありがとうございました。

*次週からは薬物やアルコール依存症について解説します。