連載㉕ 山田順の「週刊 未来地図」なぜアメリカと日本はここまで違うのか?(前編1) 旺盛な消費を牽引する 〝返品自由文化〟に脱帽

 先週(編集部註:本記事の初出は11月27日)は、アメリカでは「感謝祭ウィーク」で、「ブラックフライデー」に代表されるように、消費が大いに盛り上がりました。NYダウも絶好調で2万3000ドル台に乗せ、さらに高値を更新しています。トランプがどんなにトンチンカンなことをしようと、経済はうまく回っているのです。
 じつは私は、この1カ月半、ニューヨークに滞在し、アメリカ経済の好調の現場をこの目で見る機会がありました。それで、日本といろいろな面で違うことに、改めて驚きました。
 そこで、今回から数回にわたり、アメリカと日本の違いについて、主に経済面から述べてみます。

なんで日本でブラックフライデーをやるのか?

 私の家の近所にイオンがある。先週末、買い物に行って驚いたのが、「ブラックフライデー」のセールをやっていたこと。去年は、やっていなかった。聞くと、今年から始めたのだと言う。
 そもそも「感謝祭の休暇」(サンクスギビング・ホリディ)がない日本で効果あるかどうか疑問だが、売れるならなんでも取り入れようということなのだろう。実際、今年から日本でも、ブラックフライデーという言葉をよく聞くようになった。
 テレビを見たら、「ギャップ・ジャパン」では、先週から姉妹ブランドの「バナナリパブリック」の商品を対象に、最大50%オフのセールを行ったという。また「H&M」もセールをやったという。Eコマースでも「楽天」がポイント付与率を最大36倍に高めるなどのセールを行ったと、ブラックフライデーが日本でも定着しつつあることを報道していた。
 アメリカで、ブラックフライデーと言えば、感謝祭(11月第4木曜日と決まっている。今年は11月23日)の翌日の金曜日を指す。この日は、感謝祭ウィークで休日だから、スーパーやデパートなどのホールセール各社はいっせいにセールを始める。いわゆるクリスマス商戦の幕開けで、セールの目玉商品を狙って、消費者が殺到する。そのため、店内で商品の奪い合いが起こったりして、大いに盛り上がる。
 しかし、どうやら、日本では単なる“いつものセール”と変わりなく終わったようだ。

消費はリアル店舗からオンラインに移行

 ニューヨークの感謝祭と言えば、デパートの「メイシーズ」が行うパレードが有名だが、今年の場合、パレード例年通りは盛り上がったが、ブラックフライデーのほうは盛り上がらなかったという。メイシーズに限らずほかのデパートも、ウオルマートなどのスーパーなどでもそうだったようだ。つまり、日本のように尻すぼみで終わったようなのだが、なぜなのだろうか?
 それは、ここ数年で、消費がリアル店舗からオンラインに急速に移行したためだ。
 セールめがけて朝から長い行列ができ、ドアが開くとともに客がセール商品めがけて殺到する。「そんな光景は過去のものになった」と、アメリカのメディアはどこも伝えていた。
 その代わり、「サイバーマンデー」(感謝祭明けの月曜日、今年は11月27日)が盛り上がるようになった。感謝祭で故郷の家族と過ごした人々が自宅に戻り、今度は自宅や職場でオンラインでモノを大量に購入するからだ。
 昨年のサイバーマンデーは34.5億ドルが1日で動き、レコードを記録している。今年はまだ結果が出ていないが、昨年を上回るのは確実だ。「アドビ・アナリティクス」の調べでは11月23、24両日のホールセール大手100社のオンライン販売額は約79億ドルと前年比17.9%増で過去最高を記録している。
 消費がリアル店舗からオンラインに移行したことで、今年のブラックフライデーのニュースのトップは、アマゾンの株価の上昇になった。それによって、CEOのジェフ・ベゾフの総資産額は1000億ドルを超え世界一になった(「ブルームバーグ」の推計)。なんと、今年1年で、ジェフ・ベゾフは326億ドルも資産を増やしたという。

リアル店舗が次々に閉店しても景気はいい

 ここで、アメリカのリアル店舗消費がいかに落ち込んできたかをまとめておきたい。
 昨年から今年にかけて、リアル店舗の閉店、破産申請が相次いだ。まず「メイシーズ」が全米で100店舗の閉鎖を発表すると、「J.C.ペニー」も続いて、130店舗の閉店を発表した。
 スーパーでは、「ウォルマート」が150店舗の閉店を決め、「Kマート」も60店舗の閉店を決めた(さらに追加で100店舗に拡大)。文具大手の「オフィスデポ」はなんと300店舗を閉店すると発表した。同じく文具大手の「ステープルス」は70店舗閉店という具合だ。
 電気小売チェーン「レイディオショック」は、2回目の破産申請を行い200店舗を閉店。ファーマシー大手「CVS」は70店舗の閉店を発表。スポーツ用品大手「スポーツオーソリティ」が破産申請で140店舗を閉店した。
 ファッション業界だけはリアルが優勢と思われたが、「ラルフローレン」が50店舗を閉店し、1000人をリストラした。「ギャップ」も170店舗を閉店すると発表。「アバクロ」は100店舗、「BCBGレディースアパレル」は120店舗を閉店。「アメリカンアパレル」にいたっては、2回目の破産申請を行っている。
 こうして見ると、アメリカ経済は落ち込み、消費も低迷しているように見える。しかし、実際はそうではない。何度も述べるが、いまや消費はリアル店舗でなくオンラインに移行した。そのため、景気そのものが目に見えなくなったのである。リアル店舗の閉鎖は目に見える。だから、リアル店舗が閉鎖され、街に賑わいがなくなったのを見て、景気が悪くなったように見える。しかし、実際は違うのである。(つづく)

 
 

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【山田順 】
ジャーナリスト・作家
1952年、神奈川県横浜市生まれ。
立教大学文学部卒業後、1976年光文社入社。「女性自身」編集部、「カッパブックス」編集部を経て、2002年「光文社ペーパーバックス」を創刊し編集長を務める。
2010年からフリーランス。現在、作家、ジャーナリストとして取材・執筆活動をしながら、紙書籍と電子書籍の双方をプロデュース中。
主な著書に「TBSザ・検証」(1996)「出版大崩壊」(2011)「資産フライト」(2011)「中国の夢は100年たっても実現しない」(2014)など。翻訳書に「ロシアンゴッドファーザー」(1991)。近著に、「円安亡国」(2015 文春新書)。

この続きは、12月4日発行の本紙(アプリとウェブサイト)に掲載します。
※本コラムは山田順の同名メールマガジンから本人の了承を得て転載しています。