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ここってニューヨーク?①

イラスト Jay
羽田空港へ着いた翌朝のこと。
ホテルをチェックアウトして駅に向かったのは、まだラッシュアワーの時間帯だった。首都圏の駅の規模はニューヨークよりも断然大きく乗客の数も比較にならない。足早に駅へと向かうビジネスパーソンたちの流れはまるで大河のようで、ズラリと並んだ改札口をパンクチュアルに通過していくさまはいかにも経済大国を支える戦士たちに見える。
この日は東京に住む友人と待ち合わせがあった。場所は利便性を優先して品川駅。ここなら新幹線も乗れるし駅ビルなら迷うこともなかろう。ぼくは少し早めに着いて日本の街並みでも眺めつつおいしいコーヒーを飲みながら友人を待つことにした。駅でカフェ探し始めるとすぐにどこか見慣れた店が目に飛び込んで来た。
「What a coincidence!」
この店は20年前、ニューヨークのソーホーに住み始めた時のネイバーだったからすごく馴染みがある。オーナーも足繁く手打ちの蕎麦を食べに来ていたものだ。日本に出店しているのは知っていたのだが。うーん、入ろうか迷いつつ、まあここなら見つけやすいとそのまま入ってコーヒーを買った。そしてカウンターに腰を落ち着け窓の外に目をやると、どうやら向こう側もカフェのようだった。せっかくだから日本のカフェにすれば良かったと思いながらぼくは 「DEAN & DELUCA」と書かれたカップを口に運んだ。ところが窓の向こうにあるサインを見た途端、思わず吹き出しそうになった。もしやあの店もニューヨークで有名な…。
なんだかやたらとニューヨークっぽい日本再スタートの朝。どこか頭の中で描いたイメージとはズレている気もする。もしかすると実はまだフライト中で寝ぼけているのかも。しばらくぼんやりしていると友人が到着した。
「久しぶりです!」
と、すぐ頭をクリアにして、話に花を咲かせた。そしてランチ。荷物もあるので駅ビルの上のレストランフロアということで店を出た。その際、隣のカフェのサインを覗くとやはり「CITY BAKERY」とあった。
「で、なに食べたいですか?」
エスカレーターに乗っていると友人は尋ねた。
「やっぱり日本の、オーセンティックで…」
と言いかけたが、ここはいったんシェフという立場を忘れよう。数は少なくても子どものころデパートのレストランに連れて行ってもらった時のワクワクする気持ちをぼくは思い出した。そしてレストランフロア。どの店にしようか迷っていると友人はある店を指さして言った。
「あ、あそこに…」
つづく

Jay
シェフ、ホリスティック・ヘルス・コーチ。蕎麦、フレンチ、懐石、インド料理シェフなどの経験を活かし「食と健康の未来」を追求しながら「食と文化のつながり」を探求する。2018年にニューヨークから日本へ拠点を移す。
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