摩天楼クリニック「ただいま診察中」(連載50)子どもの病気【7回シリーズ、その4】熱性けいれん(上)

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今村壽宏 Toshihiro Imamura M. D.
SBH ヘルスシステム 小児科レジデント
2003年、長崎大学医学部卒業、医師。聖路加国際病院で小児科研修後、07年から国立成育医療センターで小児集中治療に従事。11年、カリフォルニア大サンディエゴ校小児科研究員。16年から現職。日本小児科学会認定専門医。

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5歳未満の子ども、特に生後6カ月から3歳の子どもに多発する、発熱を伴うけいれん、「熱性けいれん」。熱性けいれんにはその大部分を占める「単純型」と、全体の約3分の1に起きる「複雑型」があり、「複雑型」の場合、後年、てんかんを発症する危険性は、熱性けいれんを起こさなかった場合の10倍以上になるとされる。熱性けいれんとは何か、また熱性けいれんが起きたらどうしたらよいのか。ブロンクス区SBHヘルスシステムの小児科で治療に当たる今村壽宏医師に聞く。

Q 熱性けいれんは、子どもによく見られる症状だそうですね?
A けいれんの中でも熱性けいれんは、よく見受けられる症状です。米国を含め、統計をきちんと取っている国における発症率は3%から5%。100人中4人です。日本では10%、10人に1人といわれています。けいれんは、見た目が強烈なので親御さんは非常に心配されますが、熱性けいれんは、対処法が分かっていれば、冷静に対応できる疾患です。極論を言えば、熱性けいれんであれば放っておいていいのです。脳に障害が起きるわけでも、学習障害が起こるわけでもありません。熱性けいれんが起きたからといって怖がることは何もありません。

Q どのような症状ですか?
A 赤ちゃんが熱を出してすぐにけいれんを始める。目が上を向き、手足をバタバタさせるが意識がない。これがいわゆる典型的な熱性けいれんです。われわれ小児科医は、救急車で運ばれてきた赤ちゃんが、髄膜炎や中枢神経感染症など命に関わる深刻な病気になっていないかを必ず調べた上で熱性けいれんと判断します。大切なのは、熱性けいれんは「除外診断」、すなわち危ない病気を全て除外して初めて診断されるものだということです。

Q 発熱が何度だったら熱性けいれんと判断するのでしょうか?
A 摂氏38度(華氏100.4度)が1つの目安です。みなさんはよく「平熱は36.5度だから、それ以上出たら、熱がある」などと言いますが、医学上は「低体温」と「高体温」があって、発熱(高体温)と定義されるのは摂氏38度からです。発熱してからけいれんするのが典型的パターンですが、たまにけいれんしてから発熱することがあります。
 今の決まりでは、けいれん後24時間以内に発熱した場合でも、熱性けいれんと呼んでよいことになっています。ただし、これは非常に例外的(非典型的)なので、他の病気の可能性や再発、てんかんを発症するリスクを考えなければいけません。
Q 発熱からけいれんならまだしも、けいれんから発熱というのは、要注意だということですね?
A そういうことです。つまるところ、非典型的な症状だった場合は他の怖い病気の可能性を考えないといけません。ところで、今までお話ししてきた中で、「どうして熱性けいれんになるか」という部分をなんとなく避けているのがお分りになると思うのですが、結局、熱性けいれんの原因はまだはっきり分かっていないのです。

Q 赤ちゃんに多く起こる病気なのになぜ原因が分かっていないのですか?
A おそらくそれには2つの理由があると思われます。1つ目は、熱性けいれんは「症候群」であるからです。症候群とは同じように見えるが、原因が違うかもしれない病態を言います。例えば熱があって鼻水が出たら、なんとなく「かぜ」と呼びますが、かぜは病気ではなくて、それに関わるウイルスの名前が本来の病名になるはずなんです。インフルエンザウイルス感染症とか…ですね。かぜのように原因がいくつもあり得るもので、似たような症状が出てくるものが症候群。われわれは熱が出てけいれんする症候群を見ているだけで、原因はいくつかあるのではないか、というのが1つの説です。
 2つ目は、少なくとも熱に関わって、子どもの未熟な脳がけいれんを起こしやすい状態になるということは何となく分かっていても、それがなぜなのか、どうしたら防げるのかといったことが詳しく調べられないからなんです。

Q これだけ医学が発達しているにもかかわらず、原因が分からないなんて不思議ですね。
A 熱性けいれんは、死なない病気です。なので解剖などを行って脳の詳しいデータを取ることはできないのです。医師は目の前で起きている事例に対処しながら、体液や唾液や髄液は採取できても、脳の組織は取れない。けいれん時の脳波は取れるかもしれないが、全容は解明できないのです。

Qなるほど。病理解剖ができないから分からないということですね。逆に発熱とけいれんを伴い、亡くなってしまったらさっきも出てきた「深刻な」病気ということですね?
A そうです。脳炎や脳症、髄膜炎などです。

Q 熱性けいれんには「単純型」と「複雑型」に分けられますが、どう違うのでしょうか?
A 「単純型」「複雑型」と分類する最大の理由は3点あります。1つ目は怖い病気であるリスク、2つ目は反復するリスク、3つ目はてんかん(発熱を伴わないけいれん)を発症するリスク。熱性けいれんになると、将来てんかんを発症するリスクが少し上がりますが、複雑型の場合はそのリスクがさらに高くなります。

Q では「単純型」の熱性けいれんから教えてください。どんな症状ですか?
A 全身のけいれんが15分未満で治まるものをいいます。震えが左右対象に起き、意識を失っている状態、この状態を「全般性けいれん」と呼びますが、これが「単純型」です。熱性けいれんの90%以上が「単純型」です。 典型的な「単純型」とされる5分以内の全般性けいれんの場合は、病院では数時間様子を見るだけで通常検査はしません。その後、赤ちゃんが普通に目覚めて動けるようなら帰宅してもらいます。その時点では「複雑型」のように小児神経科への紹介もしません。

次回は「複雑型」熱性けいれんと、熱性けいれんが起きた場合に、保護者ができる対処法について解説します。
(つづく)