摩天楼クリニック「ただいま診察中」(連載51)子どもの病気【7回シリーズ、その4】熱性けいれん(下)

今村壽宏 Toshihiro Imamura M. D.
SBH ヘルスシステム 小児科レジデント
2003年、長崎大学医学部卒業、医師。聖路加国際病院で小児科研修後、07年から国立成育医療センターで小児集中治療に従事。11年、カリフォルニア大サンディエゴ校小児科研究員。16年から現職。日本小児科学会認定専門医。

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「熱性けいれんは対処法が分かっていれば、冷静に対応できる疾患であり、極論を言えば、熱性けいれんであれば放っておいてもかまわない。脳に障害が起きるわけでも、学習障害が起こるわけでもない」と話すのはブロンクス区SBHヘルスシステムの小児科で診療に当たる今村壽宏医師。ただし、「複雑型」熱性けいれんの場合、怖い病気が隠れている可能性があり、熱性けいれんを繰り返したり後年にてんかんを発症したりする危険性が「単純型」に比べ上昇すると指摘する。今回は「複雑型」熱性けいれんの症状、熱性けいれんの再発、てんかん発症の危険因子、最後に熱性けいれんが起きた場合の自宅での対処法を聞く。

Q 「複雑型」熱性けいれんの症状について教えてください
Aけいれんが15分以上連続して起きる、または短いけいれんでも頻発し、けいれんが中断している間も意識がはっきりしない状態が15分以上継続する、あるいは24時間以内にけいれんが2回以上起きた場合などに「複雑型」と判断します。また、「単純型」はけいれんが体の両側に「対称」に起きますが、複雑型では右手だけなど、「非対称」になります。最初は意識があったままけいれんし、その後に意識を失う場合もあります。つまり、長く続く非典型的なけいれんを伴う場合が「複雑型」です。
 「複雑型」の場合は、熱性けいれんではなくて中枢神経感染症だったり脳腫瘍だったり、脳出血だったり、すぐに治療していかなければいけない他の疾患が隠れている可能性がぐっと上がるので、医師は注意して診察します。場合によっては髄液検査、血液検査、頭部のCTスキャンをします。「複雑型」の場合はこれら怖い病気の可能性を除外した上で、子どもを帰宅させますが、その際は家庭での経過観察の重要性や再発の危険性を伝え、小児神経科を紹介します。

Q「単純型」「複雑型」ともに熱性けいれんは再発するそうですが、再発の予測因子は何ですか?
A 再発の予測因子は、①両親のいずれかが熱性けいれんになったことがある ②12カ月未満での発症 ③24時間以内に2回以上のけいれん ④摂氏38度から39度(比較的低い熱)でのけいれんで、このうちいずれかに該当する場合、再発の確率は2倍以上になります。再発予測因子がない場合でも再発率は15%で、熱性けいれん全体ではほぼ3人に1人が再発を経験することになります。
Q 熱性けいれんを発症した子どものてんかん発症の危険因子は、また発症率はどのくらいですか?
A てんかん発症の危険因子は、①熱性けいれん発症前の神経学的異常(例えば生まれつきの脳の病気など)②両親またはきょうだいにてんかん歴がある ③けいれんが15分以上持続したり、24時間以内に2回以上けいれんが起きたりする ④非対称のけいれん ⑤発熱前後1時間以内のけいれんなどが危険因子です。
 危険因子に応じててんかん発症率は異なりますが、熱性けいれんの既往症がない子どものてんかん発症率は0.4%から0.6%、「単純型」熱性けいれんを発症した場合で1%、つまり約2倍になります。「複雑型」では、発症率は少なくとも10倍になります。

Q 前回、「熱性けいれんは放っておいていい病気」とお聞きしましたが、特別な治療をしないのですね?
A はい。「熱を抑えるべき」といった考え方もありますが、一般的には解熱薬を使ったとしても再発の確率は下がりません。また、風邪で熱を出したときと同じように、しっかりと水分を補給しながら熱でつらそうなときなど必要に応じて解熱薬を使うことが大切です。

Q 予防法はありますか?
A 前回お話ししたように原因が分かっていないので、予防はできません。予防法があるとしたら、けいれんの原因となるインフルエンザなどの感染症を防ぐために、定められた期間内に予防接種をきちんと受けることです。

Q 最後に自宅でけいれんを起こした場合の対処法を教えてください
A まず、子どもを平らな床に寝かせましょう。その際、周りに倒れてくるものがないか確認してください。嘔吐物が見られた場合は体を左側に向けます。(舌を噛んでしまうなどと心配のあまり)子どもの口に手を突っ込むのは、窒息のリスクを高めるので、絶対にしてはいけません。そして救急車を呼びながら時間を測り、詳細な観察をしてください。
 観察ポイントは、①継続時間 ②四肢の動き(左右対称か、上だけか下だけかなど)③目の動き ④その他(唇の色、呼びかけへの反応など)です。
 けいれんをしている限り心臓が止まっているわけではないので、心臓マッサージなども必要ありません。 わが子がけいれんしているのですからもちろん慌てるとは思いますが、できる限り落ち着いた対応と観察をして、救急車の到着を待ってください。

*次回は乳幼児突然死症候群について解説します。