なぜ大金持ちも資産課税に賛成するのか?
しかし、貧困層が拡大し、格差も絶望的に広がっているので、大金持ちのなかからも資産課税やUBIに賛成する人間も出ている。
その一人が、スーパーリッチで「オマハの賢人」と称されるウォーレン・バフェットだ。彼は、オバマ政権のころから、「いままで甘やかされてきた金持ちの税率を上げよ」と提言してきた。バフェットの提言は、「ノブレスオブリージュ」(noblesse oblige)の精神の表れとされ、各方面から賞賛された。「社会的地位、財産を持つ者は、進んでその義務を果たし、国家に恩返しせよ」と述べたからだ。
しかし、大金持ちたちの「私たちに課税せよ」という提言は、単なる博愛精神に基づくものだとは言えない。というのは、富裕層ほど、現代のグローバル資本主義、デジタルエコノミーの将来に対して大きな不安を抱いているからだ。
ここまで述べてきたように、アメリカでも日本でも製造業が国外にオフショアリングされて、雇用が減った。それにより、貧困層に転落する人々が増えた。ラストベルトではホワイトトラッシュが激増し、日本の地方都市では、非正規雇用で働くヤンキー(若者)たちが大量に出現した。
そして、いま、デジタルエコノミーにより、人間の労働そのものが減少しつつある。
となると、人々は労働によって対価(つまりお金)を得られなくなるので、消費そのものが減退してしまう。これは、富裕層にお金が集まってこなくなるということを意味する。
つまり、なんらかの方法で、現在の資本主義、消費社会を維持しないと、貧困層ばかりか、中間層も、富裕層も困るのだ。
デジタルエコノミーは完全雇用を破壊する
現在、富裕層を中心に広がっている漠然たる将来不安が2つある。1つは、デジタルエコノミーにより雇用が減って、消費社会が崩壊してしまうのではないかということ。もう1つは、世界中が金融緩和を続けている先に、巨大なバブル崩壊が待ち受けているのではないかということだ。
これまで、アメリカでも日本でも、政治の大きな目標は、国民をちゃんと食べさすこと。そして、豊かにすること。すなわち、雇用をつくることだった。人々はつくり出された雇用により賃金を得て、消費生活を送る。これが、20世紀の社会のパターンだった。
20世紀には、工業化が進むとともに、製品が大量につくられ、大量に消費されてきた。そうして、世界各国は経済成長をとげてきた。
そのような社会のなかでは、人々は職を失ったときだけ、失業保険や生活保護などによる国家からの富の再配分を受けた。ただし、これを受けるには、いずれ職を見つけて働くという前提があった。
つまり、「完全雇用社会」が、これまでの理想的な社会だったのである。
しかし、IoT、AI、ロボット、キャッシュレスなどにより、デジタルエコノミーがさらに進展すれば、人間の労働力はだんだん不要になる。当然、雇用は失われていく。完全雇用社会は崩れ、貧困層はますます窮地に陥ることになる。(つづく)

【山田順】
ジャーナリスト・作家
1952年、神奈川県横浜市生まれ。
立教大学文学部卒業後、1976年光文社入社。「女性自身」編集部、「カッパブックス」編集部を経て、2002年「光文社ペーパーバックス」を創刊し編集長を務める。2010年からフリーランス。現在、作家、ジャーナリストとして取材・執筆活動をしながら、紙書籍と電子書籍の双方をプロデュース中。主な著書に「TBSザ・検証」(1996)、「出版大崩壊」(2011)、「資産フライト」(2011)、「中国の夢は100年たっても実現しない」(2014)、「円安亡国」(2015)など。近著に「米中冷戦 中国必敗の結末」(2019)。
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