初の女性首相誕生に湧いている場合ではない。女性首相誕生自体は喜ばしいことだが、日本が置かれている危機的現状を見れば、彼女はかえってそれを悪化させてしまう可能性が高い。
新首相を待ち受けるハードルは高い。目前に迫ったトランプ大統領の来日で必ず要求される、石破・赤沢コンビの“置き土産”80兆円をどうするのか? それに防衛費増額GDP比3%を加えれば、円安=物価高で、国民生活はますます苦しくなる。
メディアはさかんに、高市は安倍政治を継承すると言っているが、アベノミクスは大失敗の経済・金融政策である。そして、安倍政治とは「親米保守」である。トランプにノーなどとけっして言えないだろう。

■女性差別国家で「ガラスの天井」が破られる
いまだに想定外の高市早苗新総裁(=新首相、64)の誕生に、メディアは湧いている。これで日本が大きく変わる、復活するのではないかと—–。
しかし、それはメディアの手前勝手な思い込みだ。彼女は日本にとって最悪の選択、亡国の道である可能性が高いと、私は断言する。
ただ、それを述べる前に、初の女性首相誕生の意義を確認しておきたい。まずなんといっても、初の女性首相であること。次に、世襲、官僚出身議員が多いなかで、まったくの民間、庶民層出身から首相にまでなったこと。
これは、まさに、日本の戦後政治史の大転換ともいうべき出来事と言えるだろう。
なにしろこの国は、WEFのジェンダーギャップ指数で世界118位、女性議員比率で140位である。そんな、とんでもない女性差別国家で「ガラスの天井」が突き破られたのである。
しかも、歴代首相といえば、このところ、ほぼ、2世、3世の世襲議員が派閥と当選回数序列で選ばれてきた。それが崩れたのである。
■やはり派閥政治、麻生太郎がキングメーカー
しかし、だからこそ言っておかねばならないことがある。それは、初の女性首相誕生といっても、男女平等思想、フェミズムが彼女をトップにしたわけではないことだ。
彼女が選ばれたのは、保守、それもタカ派的言動が受け入れられたからである。参政党の躍進などで、社会全体の保守化、右傾化が進んだからである。
さらに、小泉進次郎との逆転劇を見ると、自民党がまだまだ派閥による旧体制を引きずっていることがわかる。なぜなら、ただ一つ残った派閥「麻生派」のドン、麻生太郎(85)がキングメーカーだったからだ。つまり、高市新首相を誕生させたのは、麻生太郎に他ならない。
さすがに、長老、政局の読みだけは長けている。決選投票で自身が率いる麻生派議員43人に高市支持の号令を出し、国会議員票で小泉をねじ伏せた。この結果、高市は麻生に人事を委ねることになり、麻生の義理の弟、鈴木俊一(鈴木善幸元首相の息子、72)が幹事長に決まった。
この人事は、麻生にとって狙い通りのことである。なぜなら、幹事長は公認権を持っているので、次の衆院選で麻生は安心して息子に地盤を禅譲できるからだ。
小泉・菅義偉連合の勝利だったら、麻生は完全に力を失っていただろう。
■敬愛するサッチャーよりリズ・トラスになる
さて、以上は前振りで、ここからが本題である。
高市早苗の目標は、「鉄の女」と呼ばれた英国初の女性首相マーガレット・サッチャーになることだという。これまで彼女は、度々、サッチャーを敬愛していると述べてきた。
しかし、その政治姿勢はまったく違う。
サッチャーは、新自由主義に基づき、社会主義国家化した英国を改革した。すなわち、電話、ガス、水道、航空、自動車などの国有企業の民営化と規制緩和を断行し、金融自由化を推し進め、英国社会を根本から改革した。
ところが、高市は新自由主義と相入れない保守、それもタカ派である。
とくに金融・経済政策に関しては、金融緩和と積極財政を唱えているので、サッチャーというより、2022年に英首相に就任しながら、わずか1カ月半で辞任したリズ・トラスではないかと、ブルームバーグのコラムニスト、リーディー・ガロウドは揶揄している。
実際、これまでの彼女のスピーチ、インタビューなど振り返れば、この指摘は当たっている。
■アベノミクスが失敗とは思っていない不思議
高市の保守タカ派姿勢を危惧する、あるいは批判する声は、自民党内にも野党内にもある。選択的夫婦別姓と同性婚に反対、靖国神社参拝、対中国問題、外国人問題などでの彼女の姿勢が、その危惧と批判の矛先だ。つまり、「高市は危険だ」というのだ。
しかし、そんなことより、なんと言っても金融・経済である。「失われた30年」いや「40年」を続けるこの国をどうやって立て直すのか? 自身のスローガン「Japan is Back」をどう実現するのか?というと、これが、アベノミクスの継承だから、最悪と言うしかない。
全メディアが、高市は安倍晋三元首相の「申し子」「愛弟子」と言い、アベノミクスを継承すると言っている。だから、本当にそうなるのだろうが、アベノミクというのは大失敗に終わった金融・経済政策である。それを繰り返せば、結果は明らかだ。
不思議というか、無知というか、高市はアベノミクスが失敗だとは思っていない。なぜ、日本経済がここまで衰退し、財政が逼迫しているのかわかっていない。アベノミクスによって、いくらインフレになろうと、金利を上げられなくなったことを理解していない。
この続きは10月30日(木)に掲載します。
本コラムは山田順の同名メールマガジンから本人の了承を得て転載しています。

山田順
ジャーナリスト・作家
1952年、神奈川県横浜市生まれ。
立教大学文学部卒業後、1976年光文社入社。「女性自身」編集部、「カッパブックス」編集部を経て、2002年「光文社ペーパーバックス」を創刊し編集長を務める。2010年からフリーランス。現在、作家、ジャーナリストとして取材・執筆活動をしながら、紙書籍と電子書籍の双方をプロデュース中。主な著書に「TBSザ・検証」(1996)、「出版大崩壊」(2011)、「資産フライト」(2011)、「中国の夢は100年たっても実現しない」(2014)、「円安亡国」(2015)など。近著に「米中冷戦 中国必敗の結末」(2019)。
RECOMMENDED
-

客室乗務員が教える「本当に快適な座席」とは? プロが選ぶベストシートの理由
-

NYの「1日の生活費」が桁違い、普通に過ごして7万円…ローカル住人が検証
-

ベテラン客室乗務員が教える「機内での迷惑行為」、食事サービス中のヘッドホンにも注意?
-

パスポートは必ず手元に、飛行機の旅で「意外と多い落とし穴」をチェック
-

日本帰省マストバイ!NY在住者が選んだ「食品土産まとめ」、ご当地&調味料が人気
-

機内配布のブランケットは不衛生かも…キレイなものとの「見分け方」は? 客室乗務員はマイ毛布持参をおすすめ
-

白づくめの4000人がNYに集結、世界を席巻する「謎のピクニック」を知ってる?
-

長距離フライト、いつトイレに行くのがベスト? 客室乗務員がすすめる最適なタイミング
-

機内Wi-Fiが最も速い航空会社はどこ? 1位は「ハワイアン航空」、JALとANAは?
-

「安い日本」はもう終わり? 外国人観光客に迫る値上げラッシュ、テーマパークや富士山まで









