連載326 山田順の「週刊:未来地図」新型コロナウイルス感染収束後の        世界はどうなっているのか?(下)

「脱中国」「中国封じ込め」が進んでいく

 世界の中国化が起こるはずがないという見方もできる。こちらのほうが確実なコロナ収束後の世界だ。
 なぜなら、新型コロナウイルスの発生源は中国だからである。世界のグローバル化が進み、中国経済を世界経済にリンクさせたことが今回の予期せぬ災禍を招いた遠因である。中国は「世界の工場」となり、世界のサプライチェーンの大きな一角を占めることになった。
 これにより、中国はヒト、モノ、カネを世界にばらまいたが、ウイルスもばらまいたのである。
 イタリアが中国に次ぐ「エピセンター」(発生源)になったのは、他国に先駆けて中国の「一帯一路」に参加したからだ。過度の中国依存がアダとなり、自国民を数多く死なせることになってしまった。
 このことを考えれば、世界の中国依存は大きく後退するはずだ。これまでアメリカの中国封じ込め政策(貿易戦争、覇権争い)に冷ややかだったヨーロッパ諸国もファーウエイ排除などに転換するだろう。
 すでに一部の日本企業では、「チャイナ・プラスワン」「チャイナ・ゼロ」が進んでいる。今後、この政策がいっそう進むのは間違いない。欧米企業も中国離れが加速し、サプライチェーンの組み替えが大胆に行われるだろう。
 これにより中国経済は衰え、中国の「アメリカを超える超大国」になるという「中国の夢」が困難になれば、アメリカ経済が回復した時点で世界はアメリカによる一極支配が強固になる。少なくとも製造業においては中国は没落する。

アメリカの大統領選挙に与える影響は?

 今回の新型コロナウイルス対策で、トランプ政権は明らかに後手を踏んだ。自称“天才”大統領のおごりがすぎ、アメリカの医療システムがウイルスには無防備であることが露呈してしまった。いま、民主党の大統領候補争いをしているバニー・サンダーズもジョー・バイデンも、この点でトランプを厳しく批判している。アメリカの医療システムは、いい点もあるが悪い点のほうが多い。医療システムを評価するにあたっては、次の3つの要素が重要だ。
(1)誰もがアクセスできること
(2)医療の値段が安いこと
(3)医療の質が高いこと
  この3つのうち、アメリカは(3)だけが世界一であり、(1)(2)に関しては先進国レベルにない。オバマ前大統領は、「オバマケア」によって(1)を改善したが、トランプはこれを破壊してしまった。
 そのため、大統領選では民主党陣営が主張する「メディケア・フォー・オール (すべの国民への公的医療保険)」に、トランプは見向きもしなかった。
 しかし、今後の大統領選挙では、これが最大の焦点になる可能性がある。つまり、新型コロナウイルスはアメリカの大統領選挙を大きく変える可能性がある。サンダーズのような急進社会主義をアメリカ国民が受け入れる可能性もないとはいえない。トランプが敗れて民主党大統領になれば、アメリカ社会は大きく変わるだろう。とすれば、ついこの前のような「好景気」は戻ってこない。

用心するのにしすぎることはない

 以上、ざっと「新型コロナウイルス感染収束後の世界」を展望してみたが、ひとつだけ言えるのは、ご自身でどうなるかを考え、今後に備えることだ。前にも書いたように、この災禍から逃れられる道はない。世界中どこにも逃げ場はない。ならば、落ち着いて、収束を待つ以外に手はない。

(了)

【山田順】
ジャーナリスト・作家
1952年、神奈川県横浜市生まれ。
立教大学文学部卒業後、1976年光文社入社。「女性自身」編集部、「カッパブックス」編集部を経て、2002年「光文社ペーパーバックス」を創刊し編集長を務める。2010年からフリーランス。現在、作家、ジャーナリストとして取材・執筆活動をしながら、紙書籍と電子書籍の双方をプロデュース中。主な著書に「TBSザ・検証」(1996)、「出版大崩壊」(2011)、「資産フライト」(2011)、「中国の夢は100年たっても実現しない」(2014)、「円安亡国」(2015)など。近著に「米中冷戦 中国必敗の結末」(2019)。

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