連載447 山田順の「週刊:未来地図」ワクチンで世界はコロナから救われるのか? ドルの帝国循環が強化される2021年(中)

「ワクチン ・ナショナリズム」の争い

 このように見てくると、新型コロナウイルスのワクチンの開発は、最先端技術競争だということがわかる。もし、これが武器なら、一刻でも早く完成したところが、「勝者総取り」「先行者利益」を得られる。

 そのため、今日まで熾烈な競争が行われてきた。

 また、完成したワクチンは、コロナ禍=経済不況から回復できる決め手となる。つまり、戦略物質なわけで、各国とも他国に先駆けて、国民に十分に行き渡る量を確保しなければならない。こうして「コロナ・ナショナリズム」が生まれた。

 このコロナ・ナショナリズムにいち早く邁進したのが、アメリカと中国であり、世界の製薬メーカー、バイオ企業、研究機関も当然のように、この競争に参加することになった。

 ここまでの各国の戦略を見ると、技術と資金力のある大国と小国では異ならざるを得ない。なにより、アメリカは覇権国の威信をかけて開発競争に資金をつぎ込んだ。その結果が、「ワープ・スピード作戦」の実行と、ファイザーとモデルナのワクチンの即決認可である。

 トランプは、新型コロナウイルス感染症を「チャイナウイルス 」と呼び、「単なるかぜ」と称したものの、ワクチンが戦略物質だということは理解していた。また、軍は安全保障上の最重要物質として捉えていた。

 トランプは、無能で中国よりのテドロス・アダノム事務局長率いるWHOに「脱退」をちらつかせ、WHOが提唱した「 COVAX」( コバックス:新型コロナウイルスのワクチンを世界各国で共同購入して分配する国際的枠組み)に参加しなかった。ところが、バイデンはWHOから離脱しないと表明、国際協調を打ち出している。

国際共同購入枠組み「COVAX」の欺瞞

 WHOというのは、本当にいい加減な国際機関である。世界各国、製薬メーカーなどからの資金提供で成り立っているくせに、途上国の救済が使命だと勘違いしている。

 そのため、テドロス事務局長は「パンデミックを終わらせるいちばんの近道は、すべての国で一定の人々にワクチンを接種することで、限られた国で全国民に接種することではない」と訴えた。

 その結果、2020年9月までに、COVAXには日本を含む156カ国・地域が参加した(その後現在までに164カ国に増えた)。これは、世界の人口の64%をカバーする。

 テドロス事務局長は、新型コロナウイルスの感染が拡大したとき、「パンデミックとは言えない」と否定した。それなのに、同じ舌で、ワクチンの平等配布を訴える。

 こんなエチオピア人より、メキシコの大富豪カルロス・スリムのほうがはるかにマシだ。彼はアストラゼネカと交渉し、自身の財団によるワクチン生産に関して合意した。これによりメキシコとアルゼンチンが主導して、中南米諸国に比較的安価でワクチンを供給できる道が開けた。

 中国は、当初、COVAXに参加しなかった。それが一転して、10月9日に参加すると表明した。戦略転換して、自国のワクチンを途上国に供給し、覇権拡張を目指したほうがトクだと考えたのだ。

 しかし、ロシアは参加していない。ロシアでは、12月5日から、国立ガマレヤ疫学・微生物学研究所が開発した「スプートニクV」の接種が始まった。しかし、これは、英国が8日から行うので、それに先んじることで国際アピールを狙ったプーチンの戦略だ。なぜなら、「スプートニクV」はフェイズ3の臨床試験が終わっていないからだ。しかも、プーチンは自身では接種しないという。

 にもかかわらず、プーチンは、価格が1回あたり「10ドル未満でファイザーの半額」と、その安さを強調した。ハンガリーは色気を示しているようだが、こんなワクチンを買う国があるだろうか?

英国、フランス、ドイツのワクチン戦略

 英国首相ボリス・ジョンソンは、当初、トランプと同じくコロナを甘く見ていた。ところが自身がコロナに感染すると、政策を180度転換させた。それが、今回のファイザーワクチンの接種一番乗りに現れている。

 とりあえず、英国はファイザーと4000万回の供給を受けることで合意し、8日から接種を開始した。ファイザーはベルギーに欧州の製造拠点があり、そこから初回分が英仏海峡トンネルを通ってロンドンに運ばれた。

 英国の動きに、EU諸国もワクチン認可と接種開始の準備を急ぎ出した。EUは製薬大手との6件の契約で、総人口約4億5000万人を上回る最大約20億回分のワクチンの確保を決めている。第2波の拡大が止まらない欧州にあって、ワクチンは経済復興の切り札になる。

 しかし、ドイツ、フランス、スペインなどでは、市民がワクチンを敬遠する姿勢がアメリカより強い。世界経済フォーラムの調査では、1年以内の接種意思を示したのはフランスで54%、スペインでは60%にとどまっている。

 そのため、フランスは国民の意思を尊重し、年明けから、まず高齢者施設の入所者100万人を対象に接種を始める。2月には重症化リスクが高い1400万人、そのほかの国民は春以降と、3段階に分ける計画だ。

 ドイツは年内に開始するとしている。なんといっても、ファイザーと組んでワクチン開発に成功したのは、ドイツのバイオベンチャー「ビオンテック」だ。

 この会社の創業者夫妻は、トルコ系移民で、2008年に会社を立ち上げている。

(つづく)

【山田順】
ジャーナリスト・作家
1952年、神奈川県横浜市生まれ。
立教大学文学部卒業後、1976年光文社入社。「女性自身」編集部、「カッパブックス」編集部を経て、2002年「光文社ペーパーバックス」を創刊し編集長を務める。2010年からフリーランス。現在、作家、ジャーナリストとして取材・執筆活動をしながら、紙書籍と電子書籍の双方をプロデュース中。主な著書に「TBSザ・検証」(1996)、「出版大崩壊」(2011)、「資産フライト」(2011)、「中国の夢は100年たっても実現しない」(2014)、「円安亡国」(2015)など。近著に「米中冷戦 中国必敗の結末」(2019)。
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