専門家には「2023年以降」「収束しない」も
もう一つ、「正常化調査」を取り上げてみたい。それは、NHKのコロナ特設サイトに公表されているもので、昨年11月にアップされた。
その内容は、AIを使って、コロナに関する英語論文約20万本を全文読み込み、そのなかでとくに影響力が大きい世界トップクラスの専門家14人を選出し「収束はいつになるか」を聞いたものだ。
この調査によると、いずれも現在開発が進んでいるワクチンが有効であったという共通の前提で、「2021年8〜9月」と答えたのが4人、「2021年内もしくは末まで」が5人、「2022年の春〜夏」が2人、「2022年内」が1人、「2023年以降」が1人、「収束しない」が1人だった。
つまり、世界の専門家は多くが悲観的で、多くが収束は今年いっぱいかかると考えているわけだ。
英調査会社の調査もNHKの調査も、調査時点では、その後確認された英国の変異種のことなど考慮されていない。それを思うと、さらに悲観的にならざるをえない。
専門家の1人が収束を「2023年以降」、もう1人が「収束しない」としている点が気になる。
東京オリンピック開催はもはや無理
いずれにしても、いまの状況だと、わが国の収束はかなり遅れる。英調査会社の2022年4月というのが、もしかしたら妥当な線かもしれない。とすれば、どう考えても、東京オリンピックの完全なかたちでの開催は無理だ。感染対策を万全にし、無観客で行うとしても、無理ではないか。
ところが、菅首相は1月4日の年頭記者会見で、予定どおりの開催を目指す考えを示した。首相はこう言った。「夏の東京五輪・パラリンピックは、人類が新型コロナウイルスに打ち勝った証しとして、また東日本大震災からの復興を世界に発信する機会としたい。感染対策を万全なものとし、世界中に希望と勇気を届ける大会を実現するとの決意の下、準備を進めていく」
いったい、どんな準備をしているのか? この首相は、安倍前首相と同じく、平気で「人類が新型コロナウイルスに打ち勝った証し」という大げさな言葉を使う。
しかし、現在、日本も世界もコロナに“大負け”している。
言うまでもないが、東京オリンピックの開催にも、ワクチン接種が大きく影響する。前記の首相会見によると、接種開始は2月末である。
そこから4、5カ月で、日本で「集団免疫」が確立できるだろうか?
日本はワクチン確保に関しては先手を
ファイザー/ビオンテックのmRNAワクチンは、昨年の12月に日本でも申請が行われ、治験による承認手続きに入った。政府関係者によると、通常の承認手続きをほぼすっ飛ばし、「特例承認」をするという。
日本では、規定により、必ず国内で「フェイズ1〜3」の治験テストをすることが必要とされる。これに少なくとも半年はかかる。そんなことでは、またも後手に回るので、これをすっ飛ばすことにしたというのだ。
しかし、たとえば韓国では国内での別途治験は必要ない。そのため、韓国はワクチン確保に大幅に遅れたものの、接種開始は日本とほぼ同じ2月末になった。
ただし、日本は、ワクチンの確保に関してだけは、東京オリンピックがあるせいか、素早く動いた。昨年春の時点で、厚労省の鈴木康裕元医務技監を中心に確保に走った。「できだけ早く、できるだけ多く集める」という方針で、昨年7月30日の時点で、ファイザーと契約し、さらにモデルナ、アストラゼネカとも契約した。
(つづく)

【山田順】
ジャーナリスト・作家
1952年、神奈川県横浜市生まれ。
立教大学文学部卒業後、1976年光文社入社。「女性自身」編集部、「カッパブックス」編集部を経て、2002年「光文社ペーパーバックス」を創刊し編集長を務める。2010年からフリーランス。現在、作家、ジャーナリストとして取材・執筆活動をしながら、紙書籍と電子書籍の双方をプロデュース中。主な著書に「TBSザ・検証」(1996)、「出版大崩壊」(2011)、「資産フライト」(2011)、「中国の夢は100年たっても実現しない」(2014)、「円安亡国」(2015)など。近著に「米中冷戦 中国必敗の結末」(2019)。
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