Vol.67 NYAFF特別インタビュー 俳優 阿部寛さん 内田英治さん

 

 7月15日〜31日、リンカーン・センターとアジア・ソサエティーの2会場で、「ニューヨーク・アジアン映画祭」が開催された。

 同映画祭は、アジア映画の普及とアジア映画の多様性と素晴らしさを体験する機会を提供することを目的に開催されているが、新型コロナウイルスの影響で2020年はオンライン開催、21年はハイブリッド開催となっていた。今年はコロナ後3年ぶりの完全対面開催となり、合計67作品が上映されたほか、20周年を記念して過去最多のゲストが参加した。

 日本からは、俳優の阿部寛がアジアで最も活躍する俳優に与えられる「スター アジア賞」を日本人で初めて受賞。出演作の「異動辞令は音楽隊!」がワールドプレミア上映された。 本紙では、同映画祭で上映された日本の4作品の監督、俳優に話を伺った。

 

異動辞令は音楽隊! Offbeat Cops
俳優 阿部寛さん
監督 内田英治さん

 

「失敗や挫折も一つのチャンス。挫折がある方が強くなれますね 」

 

 

Q. スター アジア賞の受賞について、阿部さんの今のお気持ちを教えてください。

阿部:この映画で賞をいただけて嬉しいです。アメリカで評価されるのは初めてなので、ワールドプレミア上映でお客様の反応を見られるのがとても楽しみです。

Q. 内田監督は、海外の映画祭に出展することをどうお考えですか?

内田:初めて参加したのはテキサスの映画祭でしたが、上映後にすれ違ったお客さんがサムズアップしてくれたんですよ。一人でも見てくれる人がいたら映画の作りがいがありますし、世界中の人に見てもらえる機会という意味で映画祭は重要な役割だと思います。

 

Q. 内田監督は阿部さんに初めてお会いした時に、「成瀬役にぴったりだ」と思われたそうですが?

内田:阿部さんが部屋に入ってきた瞬間に「あ、成瀬だ」と思いました(笑)。威厳があって、無口で静かだけどギラリと光るものがあってちょっと怖い。でも笑うとすごく優しくて。そういう日本のお父さんって、僕が小さい頃いっぱいいたんです。それを阿部さんに初めてお会いした時に感じましたね。古き良き日本のお父さんだ、と。

Q. 阿部さん用に脚本を変えられたところはありますか?

内田:言葉尻など変えました。今回の映画だけではないですが、脚本を無理やり演じてもらうのではなく、なるべくご本人とミックスする部分を探して、脚本を変えていくことが重要です。

Q. 内田監督は、挫折しそうになり音楽に救われた過去をお持ちで、その想いを今回映画にされたとお聞きしました。

内田:元々音楽を聴く習慣はほとんどありませんでしたが、10年以上前にとある作品が完成したあと上演できなくなり落胆していたとき、たまたま音楽フェスに行く機会があったんです。そこで初めていろいろなバンドのライブを観て、成瀬みたいになんだか「拓けた」感じがしました。中二病みたいですね(笑)。そこから2年ぐらい、ビートルズやローリングストーンズなどを聴くようになり、音楽のおかげで「また映画を頑張ろう」という気持ちになりました。

©2022 “Offbeat Cops” Film Partners

 

Q. 阿部さんはドラムの経験がなかったそうですが、どのように練習されましたか?

阿部:撮影の2〜3ヶ月前から先生について練習しましたが思いの外難しくて、簡単な動きもできませんでした。でも、先生が有名なドラマーのバディ・リッチさんの映像を見せてくれたことが上達のきっかけになりました。それまでドラムは乱暴に叩くイメージがありましたが、水面に描く波紋のような繊細な演奏がすごいな、と。そこから真似をしたり練習を続けて、だんだんできるようになりました。でも、手足が揃うようになったのは本番に入ってからです(笑)。本番中にずっと練習していました。

Q. 阿部さんがこの映画の撮影を通して感じられたことを教えてください。

阿部:震災の時に僕は俳優として自分の無力さを感じましたが、ミュージシャンの方達はすぐに現地に行って演奏して、人々を笑顔にされていました。今回そういう音楽の力を擬似体験できて、改めてすごいことだと思いました。また、撮影にあたって皆で集まって1ヶ月前から稽古をしました。俳優としては初めて集団で作業をして、一つの方向に向かってセッションをしていく体験ができて、素晴らしい宝になりました。それから、人はいくつになっても変われるということ。僕はセカンドステージもサードステージもあると思います。僕も不遇の時代がありましたけど、それがあったからこそ、そこからの20年のエネルギーになっていると思うんです。失敗や挫折も一つのチャンスだと思いますし、挫折がある方が強くなれますね。(7月22日取材)

阿部寛(あべひろし)

1964年生まれ。神奈川県出身。「テルマエ・ロマエ」(2012年)で第36回日本アカデミー賞最優秀主演男優賞受賞、第38回日本アカデミー賞では「ふしぎな岬の物語」で優秀主演男優賞「、柘榴坂の仇討ち」で優秀助演男優賞をダブル受賞。そのほか「トリック劇場版シリーズ」、是枝裕和監督の「歩いても歩いても」「海よりもまだ深く」など多数の映画作品に出演。「結婚できない男」「新参者」「ゴーイングマイホーム」「下町ロケット」「ドラゴン桜」など数々のTVドラマでも主演を務める。

Photo © 2022 “Offbeat Cops” Film Partners

内田英治(うちだ えいじ)

映画監督、脚本家。 ブラジル・リオデジャネイロ 出身。「ミッドナイトスワン」で日本アカデミー賞 最優秀作品賞受賞。週刊プレイボーイの記者を経 て、99年「教習所物語」で脚本家デビューの後「、ガ チャポン !(」2004年)で映画監督デビュー。「グレ イトフルデッド(」2014年)がゆうばり国際ファ ンタスティック映画祭、ブリュッセル・ファンタ スティック映画祭(ベルギー)など多くの主要映 画祭で評価された。「獣道(」2017年)、NETFLIX 「全裸監督」(2019年)では監督だけでなく脚本も 担当した。

Photo © 2022 “Offbeat Cops” Film Partners

© 2022 “Offbeat Cops” Film Partners

異動辞令は音楽隊!
犯罪捜査の鬼刑事・成瀬司(阿部寛)は、部下への厳しさ、コンプライアンスを無視した強引な捜査姿勢を咎められ、上司から広報課内の「音楽隊」への異動を言い渡される。不本意ながらも音楽隊を訪れる成瀬だったが、そこにいたのは覇気のない隊員ばかりだった…。2022年8月26日、日本全国公開。

https://gaga.ne.jp/ongakutai/

阿部さんからのメッセージ動画

タグ :