連載854 「台湾有事は日本有事」は口先だけ。
日本人に本気で中国と闘う覚悟などない(中2)
(この記事の初出は8月9日)
バイデン発言がかえって事態を悪化
中国に誤ったメッセージを伝えないために、ペロシ訪台は必要だった。それが、私の見解である。そうしなかったら、中国は米中逆転を視野に入れ、さらなる行動を起こすに違いないからだ。これは、香港ですでに世界が学んだことである。
今回のことの発端は、7月18日に『フィナンシャル・タイムズ』がペロシ議長の訪台計画を報じたことだった。これを受けて、バイデン大統領は、記者団に問われ「軍は、それがいい考えとは思っていない」と、正直に語ってしまった。
これは致命的な間違いである。ロシアのウクライナ侵攻を招いた「アメリカは軍をウクライナに派遣することはない」と同じだ。これを受けて、ロシアはウクライナ侵攻を決定した。それと同じで、中国はバイデン発言から、アメリカ国内は一枚岩ではなく、ペロシ訪台は阻止できると考えたに違いないからだ。
さらに、中国は、アメリカはいざとなったら、アメリカは台湾を助けない。ウクライナと同じく、軍を派遣しないと考えた節がある。
バイデンというのは、本当に人がいいだけの政治家で、戦略思考に乏しい。アメリカが世界のリーダーであり、唯一の覇権国家として、世界に対して責任を持っているという意識に乏しい。
ホワイトハウスの説得を拒否したペロシ
後に判明したことだが、バイデン発言の背後で、アメリカ政府は、ペロシ議長の訪台阻止に動いていた。
ホワイトハウスの「NCC」(国家安全保障会議)のカート・キャンベル・インド太平洋調整官も、ロイド・オースティン国防長官も、ペロシ議長に、「訪台すれば中国が威嚇行動に出る」「訪台はアメリカ台湾双方の利益にならない」と、説得工作を行ったという。
しかし、ペロシ議長は、頑として首を縦に振らなかった。彼女は、筋金入りの「自由と民権、民主主義」の擁護者で、「ドランゴンスレーヤー」(中国叩き論者)である。また、覇権国アメリカがどう行動すべきかを、わきまえている。
ペロシ議長の固い意思にバイデン大統領も折れ、8月1日、NSCのカービー戦略広報調整官は、記者会見で「ペロシ下院議長には台湾を訪問する権利がある」と発言した。そして、翌2日には、ペロシ議長の訪問は、中国側が「軍事活動を強化する口実にはならない」と釘を刺した。
台湾併合は起こり、アメリカは参戦しない
これまで私は、中国による台湾の武力併合はないと考えてきた。習近平はそこまで愚かではないと考えてきた。しかし、それは、現状の米中関係を考えたうえのことで、この先、言われているように、中国経済がアメリカ経済に追いついて逆転したときは、そうとは言い切れない。
米中の力が逆転し、中国がアメリカから世界覇権を奪ってしまえば、武力を使ってでも中国は台湾を併合するに違いない。なぜなら、そのときは、アメリカは手出しができないからだ。ならば、中国は急がず、機が熟するまで待つ。それがもっとも利口な考えと、私は思ってきた。つまり、台湾併合は“時期尚早”というわけだ。
もう一つ、私は、アメリカの台湾防衛は口先だけ、いざとなったらアメリカ軍は参戦しないとも考えてきた。ウクライナを見ればわかるように、最近のアメリカには、血を流してでも「自由、人権、民主主義」を守るという考えが薄れている。とくに、トランプ前大統領は、それがまったくなかった。
(つづく)
この続きは9月20日(火)発行の本紙(メルマガ・アプリ・ウェブサイト)に掲載します。
※本コラムは山田順の同名メールマガジンから本人の了承を得て転載しています。

山田順
ジャーナリスト・作家
1952年、神奈川県横浜市生まれ。
立教大学文学部卒業後、1976年光文社入社。「女性自身」編集部、「カッパブックス」編集部を経て、2002年「光文社ペーパーバックス」を創刊し編集長を務める。2010年からフリーランス。現在、作家、ジャーナリストとして取材・執筆活動をしながら、紙書籍と電子書籍の双方をプロデュース中。主な著書に「TBSザ・検証」(1996)、「出版大崩壊」(2011)、「資産フライト」(2011)、「中国の夢は100年たっても実現しない」(2014)、「円安亡国」(2015)など。近著に「米中冷戦 中国必敗の結末」(2019)。
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