連載989 女性に見限られた国ニッポン 知らず知らずに進んでいる海外流出の現実 (上)

連載989 女性に見限られた国ニッポン
知らず知らずに進んでいる海外流出の現実 (上)

(この記事の初出は2023年3月21日)

 政府の少子化対策が迷走している。少子化は「少母化」だから、女性の数が減れば減るほど子どもの数も減っていく。つまり、女性が生きづらいことも、少子化の大きな原因だ。ここ何年か、日本人の海外流出が静かに進んでいるが、その内訳を見ると、なんと女性が6割を超えている。
 しかし、政府はこの現実に目をつむっている。いまや日本は移民排出国になりつつある。若い女性が国を見限るようになっている。

 

海外永住権獲得者は20年連続で増加

 コロナ禍が3年続いたので、その間、日本は鎖国状態になった。内外のヒトの交流はほとんど途絶えた。しかし、そんななかにあっても、日本人の海外流出は進んでいる。
 昨年10月に外務省が公表した「海外在留邦人数調査統計」によると、海外で暮らす日本人の合計は約130万9000人。これは、長期滞在者と永住者の合計で、長期滞在者のほうは約75万1000人(前年比約5万6000人減)とコロナ禍のため3年連続で減少していた。
 ところが、原則として在留国で永住権を認められ、生活の拠点を日本から海外に移した「永住者」は、20年連続で増加していた。
 外国の永住権の取得は簡単ではない。富裕層なら、たとえば「投資家ビザ」により永住権を得る方法があるが、一般層の場合は、留学して現地で就職して永住権を申請する。ワーキングホリディや海外企業勤務から、スポンサードしてくれるところを見つけて永住権を申請するなど、普通は数年はかかる。
 となると、日本人の海外流出は、昨日今日の出来事ではなく、すでにかなり以前から、静かに進行していたことになる。そして、ここ数年でさらに加速したと言えるのだ。

永住者の約6割が女性という衝撃

 外務省の「海外在留邦人数調査統計」を見て、特筆すべきことがある。それは、海外永住者の男女別構成比で、女性のほうが男性より多く、約62%を占めていることだ。
 永住者の地域別の人数では、北米(約27万4000人)、西欧(約9万人)、オセアニア(約7万6000人)の順で、このどこでも女性のほうが多い。ただ、統計では、永住者の職業や年齢などの属性は明らかにされていない。
 統計資料をさかのぼって見ると、1990年時点では、永住者数は約24万6000人で、女性の割合は約54%と男女ほぼ同数だった。それが、2022年までの約30年間で、着実に女性の永住者が増加してきたことになる。
 単純に、海外で移住生活を送るとなると、富裕層を除けば、それは海外で働くニッポン男子とその妻子の永住組か、日本でリタイアした高齢者の移住組と思われてきた。しかし、それは過去の話で、後述するが、最近は若い男性と同じく若い女性も単身で日本を出て海外移住を選択することが多くなったのである。


(つづく)

 

この続きは5月1日(月)発行の本紙(メルマガ・アプリ・ウェブサイト)に掲載します。 

※本コラムは山田順の同名メールマガジンから本人の了承を得て転載しています。

山田順
ジャーナリスト・作家
1952年、神奈川県横浜市生まれ。
立教大学文学部卒業後、1976年光文社入社。「女性自身」編集部、「カッパブックス」編集部を経て、2002年「光文社ペーパーバックス」を創刊し編集長を務める。2010年からフリーランス。現在、作家、ジャーナリストとして取材・執筆活動をしながら、紙書籍と電子書籍の双方をプロデュース中。主な著書に「TBSザ・検証」(1996)、「出版大崩壊」(2011)、「資産フライト」(2011)、「中国の夢は100年たっても実現しない」(2014)、「円安亡国」(2015)など。近著に「米中冷戦 中国必敗の結末」(2019)。

 

 

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